『道徳という名の少年』桜庭一樹(角川書店)★★★☆☆

 野田仁美による寸胴で棒足なイラスト入り、本文には枠模様。この装幀なら本文はマット紙の方がしっくりきそうなのですが、つるつる紙。

 モロにラテンアメリカ文学の影響が窺える作風から始まって、現在の現実と地続きの地点に着地するという構成は、『赤朽葉家』と同趣向です。

 町でいちばんの美女は、自分そっくりの父なし娘四人(1、2、3、悠久)を生んだあとで姿を消した。四人は生きるために娼婦になり、町でいちばんの美女たちになった……。

 南米文学の精巧なパスティーシュのような第一話「1、2、3、悠久!」から始まり、第二話「ジャングリン・パパの愛撫の手」にもいろいろな先行作からの切り貼りの跡がうかがえ――徐々にマジックリアリズムから現実に接続してゆき、現実が浸食してお伽の殻が剥がれてきます。第一話ではインディオやクリスチャンという単語こそあるものの「どこでもない国」だったのが、やがて最終話では明確に「日本」が意識されざるを得ません。

 先ごろ文庫化された『青年のための読書クラブ』も同じような書き方の作品で、現代に近づくにつれ途中からどんどん悪ノリ(?)が始まっていました。悪ノリというか、「過去―お伽噺」という関係がそのまま「近過去・現在―戯画」という関係に移し変えられているようなところがあります。100年後ぐらいに、あるいは外国の人が読めば、これもまた「お伽噺」に見えるのでしょうか。
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