『二つの密室』F・W・クロフツ/宇野利泰訳(創元推理文庫)★★★☆☆

 『Sudden Death』F. W. Crofts,1932年。

 邦題にあるとおり二つの密室――ていうかこの邦題だと、事件が最低でも二つ起きることが読む前からわかっちゃいますよ!

 二つある密室のトリックは異なるものの、自殺ではなく殺人だとフレンチが確信するにいたった理由がどっちも指紋だったり、真相に気づくきっかけがどっちも犯人にしかわかり得ないことをしゃべってしまったからだったり、なぜか似たり寄ったりの不思議な事件。

 それでその犯人にしかわかり得ない事実なのですが、一つ目の事件のときの失言の用いられ方が、非常に上手い。ものの見方を変えた途端に、証言の意味がくるりとひっくり返るのですが、最初に証言を得た時点でうまく誘導されてしまい、それが表向きの事件の構図とぴたりと嵌ってしまうので、まったく疑いませんでした。

 しかもこの証言がなされた時点で、第二の事件が起こるのはすでに決定事項なんですよね。明らかにされた動機を別にしても、事件を起こさないと嘘がばれてしまうわけですから。で、そうしてみると、用いられた無茶な物理トリックにしても、この目撃証言を引き出すためには必要だったのかな?と。

 トリックはどうということはないですが、そういうところが楽しめました。『クロイドン発』でもそうだったけど、フレンチがやたらと昇進を気にかけるのが面白い。

 平和な家庭には陰があった。病弱な妻、愛人のいる夫、典型的な三角関係から醸し出される無気味な雰囲気。悲劇の進行は、若い家政婦アンの目を通して語られる。――アリバイ・トリックの巨匠クロフツが、こんどは趣向を変えて、密室のトリックを創案した。一つは心理的、もう一つは物理的といえるトリックで、この二つが有機的に関連する殺人事件の謎に、わがフレンチ警部が挑戦する。「英仏海峡の謎」につづく怪事件!(扉あらすじより)
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