『ななめの音楽 1・2』川原由美子(朝日新聞社・眠れぬ夜の奇妙なコミックス)★★★★★

 『ネムキ』連載分に、ラウラと光子先輩が出会うエピソード+戦闘機解説が加えられて、格段にわかりやすくなりました。

 描き下ろしのエピソードがあることで、「笑顔を見せない光子」という設定がいっそう引き立てられていますし、下巻238ページの4コマ目がこゆるではなくラウラに向けられている理由にも納得がいきます。

 高校生(?)の伊咲こゆるは、終業式の日、憧れの光子先輩のところに飛行機がお出迎えしている場面に遭遇し、誘われるようにドイツに向かいます。ドイツでは折りしも始まる航空機レースに向けた準備が進められていました。幼いころに収集品の飛行機から見た投影機の空が忘れられずに空に憧れ、屋敷に残された戦争の記録を読んで衝撃を受けた光子は、忘れられた戦争と戦闘機の記憶を甦らせ、みずからが飛ぶ空を見つけるために、レースに参加します。無茶をする光子にとって、「お荷物」のこゆるはいわば安全装置のような役目を果たしていたため、いつしかなくてはならない存在になっていました。甘えん坊のこゆるには、強い意思を持った人に空想の羽が生えているのが見えるらしく、いつか光子先輩から羽をもらうことを夢見ていました。ところが模擬飛行で再現された戦闘シーンを見て、こゆるはそれまで意識していなかった「死」を戦闘機に見出してしまいます。さらには利権がらみでレース中に実際に「戦闘」をおこなおうとする参加者たちが現れたことで、光子たちがレースに参戦することすら危ぶまれる事態になり……。

 『観用少女』でも機械や都市の描き込みには凝ったところを見せていた川原由美子ですが、満を持して機械まみれの作品ができあがりました。戦闘機はもちろんですが、第一話目からすでに、工場のような学園、魔女狩りの装置、要塞のような飛行船といった金属感ただよう雰囲気に満ちあふれています。機械だけではなく、小物から洋服まで微細な描写があるので、じっくり見ていると読むのにとんでもなく時間のかかる作品です。

 連載されていた『ネムキ』という媒体を意識したのか、最初の数話を初めとしたいくつかの回は、怪談風のエピソードが織り込まれているのも特徴です。第一話は同級生が見つけ出してきた魔女狩りの装置、第二話は夜中に泣いている幽霊の声、第三話は姿の見えないお嬢様のために家事をし続けるメイド、第四話では島に着陸したこゆるたちに悪巧みする姫様、第六話には光子先輩のそっくりさん、第八話には長い髪の天使(こゆるの空想した民話)。怪談から、本書の題材である「機械の国」へ転ずる第二話に、作品との関わりという点で軍配が上がるでしょうか。

 しかし読み返してみてもやはり最後(P.232)が唐突です。もともと、ぽい雰囲気ではあったし、230ページのシーンもあるとはいえ、う〜ん、何でしょね。。。

 ところでカバーには「based on non existent novel written by Michiaki Sato」とありますが、早い話が「佐藤道明原案」と言いかえていいのかな。
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