『玉工乙女』勝山海百合(早川書房)★★★★★

 往年の少女小説のようなカバーイラストがしっくりきてます。

 内容はこれまでの短篇集のような、エピソードを積み重ねて一つの長篇が形作られたものです。石細工の職人を夢見る少女・黄紅《おう・こう》、蓮の描けない絵師・周千麒《しゅう・えんき》、弟を魔物から守るために代わりに男装で過ごす姉・沈双槿《しん・そうきん》、作中作として語られる死者との結婚怪談、かつて石の産地として栄えた田舎町で行われる安産のおまじない、思い込みと気性の激しい小恩《しょうおん》、有力者の息子で女たらしの李案《り・あん》(ものすごい脇役なのに名前までついて、この存在感)、お忍びの今上帝かと黄紅に疑われる楽隠居・氷壺楼《ひょうころう》主人、控えめにでもしっかりと世界に根づいてそこここで顔を出す人外のものたち……。

 それよりも印象に残ったのが、ものと食べ物に対する偏愛と呼びたくなるほどのこだわりです。石細工に憧れる少女が主人公なのだから石についての描写が輝いているのは当然なのですが、食べ物がどれも美味しそうなことといったら。でも考えてみると黄紅は「好きなものは」とたずねられて食べ物を答えるような食いしんぼなのです。

 沈双槿の妹・双芙《そうふ》の作った仏手柑入りの仏手饅頭、土産にもらった味噌入りの干し蜜柑、旅先で黄紅が食べた鵞鳥の肉。特に最後の鳥肉はインパクトがありました。「黄紅の頑丈そうな歯が肉に食い込み、肉はすぐさま口中に引き込まれ咀嚼された。」美味しそうというより旨そうとでも言うべき、夕飯刻でお腹が空いているという場面にぴったりの勢いのよさ。こんなに食べ物を美味しそうに描く人だったかな、と、これまでの短篇集ももう一度読み返してみたくなりました。

 彫って彫って彫り続けるの――普通の村娘の黄紅は、石印のつまみに細工をほどこす職人を夢見て、腕はいいがだらしのない師匠を叱咤しつつ、毎日教えを請うていた。やがて黄紅の石印は目利きに認められ、ついには憧れの競刻会の出場が決まるのだが……。

 いつか女に戻れるだろうか――男装の少女、沈双槿は悩んでいた。か弱い弟が魔物に狙われたため、弟に女装させて自分が男となり、敵の目をくらますため耐え忍んでいたのだ。だが苦難は続き、妹までもが魔物に狙われてしまう。沈双槿は妹を救う決意をし……。

 たとえ何があろうとも、選んだ道を進んでゆく。ひたむきな二人の少女たちが彩る、不思議な中華少女小説(カバー袖あらすじより)
 ----------------

  『玉工乙女』
 
amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。
  オンライン書店bk1で詳細を見る。


防犯カメラ