『ミステリマガジン』2011年12月号No.670【ユーモア・ミステリ遊歩】

 今月号はユーモア・ミステリ特集でしたが、ちょっと思ってたのと違いました。

東川篤哉インタヴュー」
 死体にけつまずくのは禁じ手などなど、独自のこだわりがあるようです。

「ユーモア・ミステリ遊歩 資料と研究」大矢博子・杉江松恋・羽田詩津子
 エッセイは三本ともなぜかコージー・ミステリについて。

夢で逢いましょう」クレイグ・ライス/宮澤洋司訳(I'll See You in My Dreams,Craig Rice,1954)★★★☆☆
 ――「毎晩、女房を殺す夢を見るんだ」天使のジョーのバーで、ビル・クイックが言った。「弁護士が必要なんだ。このマローンみたいに優秀なやつが」

 酔っぱらいが出任せで考えたような犯行計画を、酔っぱらいの弁護士に相談したら、そこまでぼんくらではなかった……というような、しょーもなさ自体が魅力となっている作品でした。
 

「運命」P・G・ウッドハウス森村たまきFate,P. G. Wodehouse,1931)★★★☆☆
 ――「フレディの奴が戻ってきたんだ」一人のクランペット氏が言った。「つまりさ、もしフレディが――世界最高の動機から――女の子のためにスーツケースを運んだりしなけりゃ、ボドシャム伯爵の一人娘メイヴィスと祭壇に向かってたかもしれないんだ」

 いつものごとく自ら失敗に向かって突き進んでゆくウッドハウス作品の住人たち。アメリカとは――人殺しと、浮気現場の取り押さえばかり起こる国、だそうです。
 

「カミの三つのコント、再び(生まれ変わり/ホラホラ男爵のエッチな冒険/皇太后の香水師)」カミ/高野優訳(Réincarnrés! ou les mystères de l'inconnu/Automata par amour: Comment le baron de Crac devient automate et ce qui s'ensuivit/Le parfumeur de la reine,Cami,1939/1925/1914)★★★☆☆
 ――独身の色男「このまえ『前世占いの会』に行ったところ、ぼくはどうやらロミオの生まれ変わりらしいんですよ」浮気な妻「(うっとり見つめて)ロミオですって?」髭面の夫「そんなこともあるかもしらんな」

 自動人形の話と、香水師の話は、ネタが一緒ではなかろうか。
 

「七人の探偵には向かない職業」芦辺拓
 

「迷宮解体新書(47) 彩坂美月
 『未成年儀式』『夏の王国で目覚めないで』の著者。

「小特集 アガサ・クリスティー賞」
 著者インタヴューと受賞作シリーズの新作短篇。インタビュー、作品ともに、やたらとこっぱずかしい人でした。美意識過剰。二昔前の幻想文学系の人を連想しました。

「最期の一壜」森晶麿
 ――バー『ファタール』のバーテンが肝臓癌の女性客にアルコールを出し続けたのは、子どものころにいじめられた仕返しなのか――。教授からその話を聞いた黒猫たちは……。
 

「誰からも愛された人」A・A・ミルン/羽田詩津子訳(A Man Greatly Beloved,A. A. Milne,1950)★★★★☆
 ――わたしは十五歳で、作家をめざしている。父はエシントンの教区牧師である。バラーズ荘に新しく人が越してきた。「ジョン・アンダーソンさんという人だ」と父が言った。アンダーソンさんは五十五歳で、仕事はもう引退した。ただ、どういう仕事をしていたかについては誰にも何も話さなかった。

 1988年2月号の再録。語り手みずから「ヘンリー・フィールディングやローレンス・スターンと同じ学校出身なので」と書いているとおり、身のまわりの脱線ばかりでなかなか話が進まないところは、語り手本人のエッセイを読んでいるようなユーモアに包まれている――と思ったけれど、実は本篇はユーモア・ミステリ特集とは無関係の再録のようです。最後に至ってミステリであることが明らかになりました。
 

「クリスマスの教え」トマス・H・クック/府川由美恵訳(The Lesson of the Season,Thomas H. Cook,2003)★★★☆☆
 ――クリスマスイブの勤務時間も終わろうかというころ。誰かがブザーを鳴らした。ヴェロニカはドアに目をやった。ハリー・ベンサムだ。哀れなのは、ハリーが決していい本を買わないことだ。俗悪なペーパーバックばかり読んで、そこから何を得ることができるというのだろう。

 オットー・ペンズラーが毎年作っている、〈ミステリアス・ブックショップ〉を舞台にしたクリスマス・ストーリーの2003年版。
 

トム・ロブ・スミス・インタヴュー」
 『チャイルド44』の作家さん。

「独楽日記(48)」佐藤亜紀
 最近はずっとこんな水増しのやっつけ仕事ばっかり。

「幻談の骨法(16)」千野帽子
 筒井康隆

「Dr. 向井のアメリカ解剖室(36)」
 

「書評など」
ジェフ・ニコルソン『装飾庭園殺人事件』は、「ポストモダン文学が好きな人、モンティ・パイソンのようなショートギャグの連なりが好きな人、変わったものが好きな人(あと下ネタ好きな人)は絶対読み逃さないほうがいい」という一冊。

有栖川有栖川『真夜中の探偵』は、江神、火村のシリーズに続く、ソラという新たなシリーズものの第二作だそうです。火村シリーズは駄作が多いですが、今回のシリーズはどうなのか気になるところです。

レーモン・クノー・コレクションより、『サリー・マーラ全集』水声社)。国書刊行会ではジャリ全集が企画中だそうです。◆円城塔『これはペンです』
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  『ミステリマガジン』2011年12月号
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