『Through a glass, Darkly』Helen McCloy,1950年。
「最高傑作」にして異色作。「幻想ミステリ」と冠されるタイプの結末を持つ作品ですが、そこはサスペンスの名手なだけあって、同種の他作品とくらべると圧倒的に面白い。最後の一章までは飽くまで真実が不明なまま、最後の最後でようやく探偵の推理(推測)が怒濤のごとく披露されるものの、リドル・ストーリーというより不条理劇のような結末には慄然となりました。呆然として余韻が尾を引く――という意味では、(タイプはまったく異なりますが)『歯と爪』の読後感にも近い。フォスティーナの出生が明らかにされた時点で、「犯人」の素性は見当がつくものの、その「正体」の特定にはしっかりとした伏線が張られており、こういうシンプルな真相には力強さがあります。作中で目撃される怪異のなかでも、「フォスティーナの動作が遅くなる」という謎だけは、さすがにいくら何でも常識的な解決がつけられないんじゃないかと思いながら読んでいましたが、これもあっさり説明がつけられているのには感心しました。
ブレアトン女子学院に勤めてまだ五週間にしかならない女性教師フォスティーナは、突然理由も告げられずに解雇される。彼女への仕打ちに憤慨した同僚ギゼラと、その恋人の精神科医ウィリング博士が関係者を問いただして明らかになったその“原因”は、想像を絶するものだった。博士は困惑しながらも謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう……。幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作。(カバー裏あらすじより)