ガリマール社のジュヴナイル叢書のようです。アルセーヌ・ルパンを思わせる「怪盗」が出てくるというので読んでみました。マルセル・エーメの短篇3篇収録。
「La clé sous le paillasson」(玄関マットの下の鍵)★★★☆☆
――紳士強盗は足を洗う決心をし、玄関マットの下の鍵をくすねて留守中の家で一晩眠ることにした。だが翌朝早く、家の主人が帰宅した。「息子じゃないか! 十八年ぶりに帰ってきたのか」
相手のボケにすべて乗っかるバカボンみたいなノリの話でした。「お久しぶり」「お上がり下さい」「ところでどなたです」のような。父親に言いくるめられて有り金すべてを巻き上げられてしまった紳士強盗でしたが、俄成金になった父親が娘の結婚相手に反対するのを見て、金庫からお金を盗み出すのでした……。十八年ぶりと言われて、「じゃあ俺は三十代後半かい!」とムッとする泥棒がかわいい。自分の本名がわからなくなったりするほか、紳士強盗というだけで、あんまりルパンとは関係ありませんでした。
「La canne」(杖)★★★☆☆
――Sorbier氏は毎週日曜日に家族で散歩に出かける習慣だった。今日はエミールおじさんが遺した杖を持ち出したくなった。杖で裸婦像を指して妻に嫌味でも言うように、子どもたちにレクチャーを始めた。杖を持ってから人が変わってしまったかのようだ。
ハンドルを握ると人格が変わってしまう人がよくいますが、この人はステッキを持って人が変わってしまいました。当然のごとく失敗を起こしてしまうし、奥さんには不審な顔をされてしまいますが……。
「Le nain」(こびと)
中公文庫『マルセル・エメ傑作短編集』に「こびと」の邦題で収録。
『La Clé sous le paillasson』