『ミステリーズ!』vol.50 2011年12月

[特集]2011年ミステリ総ざらい 東川篤哉インタビュー&編集部覆面座談会

 カーの新訳は定期的に出る予定だそうです。そして有栖川有栖・江神シリーズの短篇集が夏頃に出る予定。
 

魔の山の殺人』(1)笠井潔
 ――ナディアは鈴木大拙『日本的霊性』をテキストにカケルから日本語を教わっていた。カルヴァン親鸞の共通点から、日本化される西洋文化・思想にまで話は至る。やがて『サマー・アポカリプス』事件のジゼール・ロシュフォールと偶然再会した二人はスキーに誘われる。生前の大叔母から、ブルムという友人が訪ねてきたら会ってほしいと言われていたのだ。

 矢吹駆シリーズ最新作。連載第一回となる今回では、事件はまだ起こっていません。カケルとナディアによる思想談義が大半を占めます。「空気」に「アニマ」とルビをふっていたり日本人論めいた会話が交わされたりしているところからすると、今回はこれまで以上にアクチュアルな内容になるのでしょうか。
 

「死刑囚はなぜ殺される」(『死と砂時計』パート1)鳥飼否宇
 ――死刑を待つ囚人たちのなかから確定囚に選ばれ四日後に処刑されることになったのは、「物質化の魔術師」シャヴォだった。入所直後に問題を起こしたナンジョウも同日に処刑されることになった。ところが――翌日、シャヴォは刺し傷だらけで、ナンジョウは喉を一突きされて死んでいるのが見つかった。凶器はなく、誰かが侵入した形跡もない。

 こちらも新連載。一話完結の連作のようです。古参の囚人シュルツ老と、その「弟子」アラン・イシダが監獄内で起こる事件を解決するシリーズらしき模様。シュルツ老が指摘するように「数日後には死刑になる死刑囚をなぜ殺さなければならなかったのか?」という問題が謎の中心であるとわかれば、このWHYの答えはすぐにわかりますが、それでもなおHOWの問題がまだ残されており、その奇っ怪な真相には度肝を抜かれました。
 

エラリー・クイーン〈国名シリーズ〉新訳刊行 記念鼎談 有栖川有栖×北村薫×中村有希
 北村「クイズ本との違いは著者名のところに『エラリー・クイーン』と書いてあるかどうかです。書いてなかったらダメですよ。」有栖川「ダメなんだ(笑)。」だそうです(^^;。
 

「アフリカ旅商人の冒険」エラリー・クイーン中村有希(The Adventure of the African Traveller,Ellery Queen,1934)
 新訳版。邦訳『クイーンの冒険』からは割愛されていたJ・J・マックの序文も併録。
 

「轢かれる」辻真先
 ――優芽の母親は列車に轢かれて左手を失っていた。事情を知ったのは最近になってからだ。噂では母は優芽を連れて無理心中しようとしたらしい。借金で首が回らない父に代わって、父の旧友であるヤクザに詫びに行ったところ、それきり催促はぴたりとやんだ。誰もが母の不貞を疑った。父さえも――。

 登場人物が取った行動を支えるほとんど狂気にも似た観念には、感動というよりは戦慄を覚えました。一方で動機や轢かれた理由の面ではガチガチの謎解きものを髣髴とさせるトリッキーな作品でもありました。
 

「結ばれた黄色いスカーフの事件」北原尚彦
 ――ホームズのもとを訪れた青年は、エドガー・F・クランプトンと名乗った。インドに従軍していた伯父の家の灌木に、黄色いスカーフが結ばれているのが見つかり、伯父の顔色が変わった。それはタギーという殺人集団の印であり、インドで掃討作戦に関わっていた伯父に復讐の手が忍び寄っているという警告だった。

 ホームズ・パスティーシュ第二弾。シリーズ化決定。語られざる事件簿もの「アドルトンの悲劇」。さすがと言うべきか、とにかくうまい。文体や構成や雰囲気はもちろんのこと。オリジナルのホームズ譚自体が純粋な謎解きものではないので、「ホームズらしさ」と、意外な犯人やトリックといった「ミステリらしさ」を両立させるのは結構むずかしいのではないかと思うのですが、これは見事に成功しています。
 

「私はこれが訳したい」(第1回)田口俊
 『The Postman Always Rings Twice』James M. Cain。

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 魅惑の翻訳ミステリ叢書探訪記(1)」川出正樹
 まずは前口上。次回は〈クライム・クラブ〉について。

ピーター・フォーク追悼 コロンボ再見」山口雅也
 印象的なエピソードとその解説。

「路地裏の迷宮踏査(50)セックス・ヘクト・ロックンロール」杉江松恋
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