何といっても表紙に尽きます。大笑いしてしまいました。表紙だけで★5つ。
詳しくは書影をご覧の通り。史上まれに見るインパクトのデザインです。装幀は久持正士・土橋聖子(hive&co.)。
この装幀の前では内容などどうでもいいのですが、そこはそれ、内容はというと、ボードレール読んでるオレってかっこいい――という文字通り中二病の中学二年生・春日が、ふとした拍子に恋心を抱いている佐伯さんの体操着を盗んでしまい、それを目撃していたクラスでも浮いている仲村さんに、思い通りに操られてしまうという、甘酸っぱいんだか腐れ切ってるんだかわからないドロドロな話です。この仲村さんというのがドSの女の子で、春日に変態じみたことをさせては興奮するという凄まじい性癖の持ち主です。これが青年マンガだったならただのエロ漫画になっていたかもしれませんが、少年マンガという抑えがうまく利いて(痛々しい)青春ものになっております。
※でもそれは第一巻だけでした。第二巻ではド変態漫画(これはこれで面白いものの)、第三巻では都合のいい妄想漫画になってしまいました。第四巻・第五巻でド変態に戻る。そしてカバーデザインのフォーマット自体を変えるという大胆な発想!
表紙もそうですが、現役中学生はどうなのかわかりませんが、今読むとけっこう笑えて面白いです。なにしろボードレールに入れ込んでいるので、好きなクラスメイトのことを真顔で「ミューズ」「ファム・ファタール」と呼ぶ主人公。「ボードレールを理解する人間が/この町に何人いる!?/なぜ/全ての鉄がさびてるんだ!?」と自転車で疾駆しながら心のなかで叫ぶ主人公。「どいつもこいつも間抜けでだらしないおっとせいの群れだ!」と心のなかで同級生を罵倒する主人公。「佐伯さん…オレはもう二度とこの体操着を取り出さない…/もう匂いをかいだりしない/これ以上罪を重ねるようなことはしない/ごめん…佐伯さん/ありがとう…オレを救ってくれて…」という変態丸出しの台詞を切なくシリアスにつぶやく主人公。ボードレールの肖像画を写真立てに飾っている主人公。
おまけページで「作品解説」と銘打って作者手書きの裏話が掲載されていますが、驚くほど字が汚い!
巻末のあとがき漫画を信じるかぎりでは、作者が真性の変態っぽいのが気持ち悪いのですが……。
あ、主人公が『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』を読んでいるシーンがあるので、SF好きの方もどうぞ(?)。
あまりにもインパクトのある装幀だったので、思わず自分の本棚から印象に残る装幀・好きな装幀の本をいろいろと探して見ました。
祖父江さんの装幀はどれもインパクトがありますが、やはり内容と装幀がぴったり一致しているこのシリーズを挙げます。裁断が斜め、背が本体より短い、角が丸い、扉に穴、奥付の発行年は日付ではなく「バレンタインデー」。まつがいだらけの装幀です。
2.『稲垣足穂全集』筑摩書房(装幀:クラフト・エヴィング商會)
足穂は羽良多平吉による『ユリイカ』足穂特集号も捨てがたいのですが、暴言を承知で言えばあちらは「ほかの人にも思いつけそう」なのに対して、唯一無二の全集版に軍配を上げます。だって箱が厚紙なんです。服を買ったりクリーニングに出したりしたときに挟まっているような、あの表面が白くてつるつるで裏面が灰色でざらざらの厚紙。その裏面を表側にして箱にして、題箋を貼り付けただけ。それでどうしてこんなにもお洒落になってしまうのか、そもそもどうやってこのアイデアを思いついたのか。
3.『二月十四日』金子彰子(装幀:金田理恵)
カバーで本体をすっぽりくるんで、端っこが糊留めされていました。そして、「(カバーは)『破き外して紙片を捨てて』いただいてもかまいませんが、剥がれたハートをのこし、前表紙にもう一度折り返してお読みください」という、詩「二月十四日」を引用したメモ付き。そうなのです。カバーのハートマークが糊どめされていて、ちょうど手紙の封を切るようにしてカバーを開き、本文を読むようになっているんです。著者は十代で「二月十四日」を発表したあと詩からは遠ざかり、それから二十数年後に初めて出したのがこの詩集とのこと。つまり二十年越しのラブレター、というめちゃくちゃお洒落な装幀なのでした。
たまに子供等らが/膝小僧を切って/窓の桟は/いっそうさびた(「家郷」より)
獅子座流星群の/最後の飛沫を/浴びて/消えてしまった/五人の仲間/誰かがもってきた/コーヒーの味は/十一年経っても/味蕾から消えない(「望遠レンズ」より)
室生犀星晩年の詩集である本書は、著者自装です。手書き文字のタイトルと活字体の「詩集」と著者名を、手書きの枠で囲っただけのシンプルなデザインなのですが、これが非常にいい味を出してます。
5.『隻眼の少女』麻耶雄嵩(装幀:関口聖司)
これはコスプレではありません。(ええと、コスプレと言えばコスプレなんですが、)つまり作中に出てくる名探偵は、実際にこんな恰好をしているんです、普段から。なぜって? それは本書をお読みください。
6.『Self-Reference ENGINE』『Boy's Surface』円城塔(装幀:名久井直子)、『虐殺器官』『ハーモニー』伊藤計劃(装幀:水戸部功)
それぞれ単行本版と文庫版。黄色い本とピンクの本と黒い本と白い本。
7.『このページを読む者に永遠の呪いあれ』マヌエル・プイグ(装幀者不明)
ラテンアメリカ文学叢書の一冊。シリーズはすべて同じ装幀ですが、手元にあるのがこの本なので。ダンボールの筒箱、四角いシンプルな題箋、幅広の帯、フランス装っぽい本体……おそらく刊行された当時でさえレトロだったのではないかと思われる、上品で落ち着いた装幀は、見ているだけでほっとした気分になれます。
8.河出文庫(カバーフォーマット:佐々木暁)
現行版の文庫が書店に並んでいるのを初めて見たときは眩暈がしそうでした。白と真っ黄色で真っ二つにされた分類のためだけのけばけばしいデザイン――いくらなんでも……と思いながら手にとってみると、ただの直線と思えたものが、和紙ふうの切り貼りだとわかって感心したものです。これが果たしてお洒落なのか、すべての文庫イラストに合うのかは措いておいて、文庫とバーコードという縛りに挑戦した点を評価したいです。
9.幸田文の作品
本というより和風の小物のような、味わいのある、手で触れていつまでも愛でていたいような作品です。この2冊は内容ではなく本そのものが欲しくて購入しました。