『弾丸ティアドロップ』(全2巻)稲見独楽(講談社アフタヌーンKC)★★★★☆

 「恋した人は殺し屋だった」という帯のキャッチコピーが甘酸っぱい、往年のドラマでも見ているような不思議な味の作品。

 携帯やパソコンが描かれている以上はどう見ても舞台は現代なのに、絵柄といい内容といい見るからに昭和風味の漂う、レトロな作品です。一周回ってこういうのもありですね。おまけ漫画に描かれている、「今こそヒップホップに奪われた極悪不良音楽の称号を(ロックが)取りもどす時」という感覚なんだろうなあ。

 古本屋に楽譜を探しに行く途上、携帯電話を拾った高校生・七瀬。古本屋のおねえさん・みゆきさんが泣いているのを見て恋に落ちてしまった七瀬でしたが、そのみゆきこそ携帯の持ち主であり、携帯には仕事の情報が詰まっていました。殺し屋という仕事の――。七瀬はそのせいで命を狙われるものの、みゆきのことが忘れられずに会いに行くが、みゆきは警察やヤクザに追われて姿を消していた……。

 描かれている高校生活が無意味に馬鹿で元気で、「無意味に」というのが馬鹿っぽさに輪をかけていました。キングクリムゾンの宮殿とか昼休みにエグザイル・ダンスとか。

 そして殺し屋のみゆきさんですが、何というか、この「色っぽいおねえさん」というのがすでにして昔風の存在である気がします。可愛いとか綺麗とかじゃなく、「色気」というのが。

 初めのうちは殺し屋サイドの残酷さと、お馬鹿な七瀬君たちが代わる代わる描かれる感じで、ちょっと展開はゆるやか。みゆきさんが姿を消したあたりからようやく物語は加速しだして、ストーリーの道筋も「みゆきさんを守ろうとする七瀬」というわかりやすい構図に確定します。こうなればあとは流れに沿って一直線、ドンパチありデートありカーチェイスあり通りすがりの理解者あり刑事ドラマふうの刑事あり、普通のお洒落してミョーに照れてるみゆきさんとか、いかにもよれよれの背広が似合いそうな刑事とか、ヘンに青春してるタクシーの運ちゃんとか、古くさい絵柄がぴったりはまった感があります。

 高校生と殺し屋の恋というリアリティのない素材を、「ドラマのなかの昭和」を利用して描くというのが面白いアイデアの作品でした。

  [bk1]


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