宮部みゆきと北村薫の対談目当てで購入。益田ミリ『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』の記述に恐怖を認めるところがいかにも北村さんです。
「宮部怪談の舞台を歩く」
現代でもどうにかこうにか面影を偲ばせる場所を選んで写真入りで紹介されています。
「宮部みゆき推薦! 私の好きなこの話」
「指輪一つ」岡本綺堂
――「ひどい混雑ですな」隣の男が話しかけたのです。「あなたは東京ですか」「本所です」「ああ」と、僕は思わず叫びました。本所の被害がもっとも激しく、震災で何万人も焼死したというのを知っていたのです。そのうちに僕の気分が悪くなってきたのを見て、車外に連れ出して土地の宿屋まで連れて来てくれました。「風呂にでもいってらっしゃい」僕が廊下を渡って行くと、風呂場にひとりの女が戸をあけてはいっていくのでした。するとどこかで人のすすり泣きをるすような声がきこえる。
「怪の再生」福澤徹三
――「怖い話ってよく知っているつもりだけど、急にいわれてもなかなか思い出せないな。んーと、じゃあ昔聞いたやつで、ビーチボールの話っていうのをやります……」「ええっ、もうおれの番なの。おれ怖い話ってマジでだめ。だからほとんど知らないし……」「いままで話を聞いていて、ちょっと怖いモードに入りかけてるみたいです。この話、ひとにいうと、ちょっとやばいかなって思うんですけど……」
綺堂「指輪一つ」は、超常的な怪異と現実的な恐ろしさがうまく融合した奇談でした。前半部分は、飛騨にいた語り手が関東大震災の報を聞いていてもたってもいられなくなり、東京行きの列車に乗るという、震災小説です。わたしが実話怪談を苦手なのは、「いまから怖い話するからね。ね、ね、怖いでしょ怖いでしょ」という押しつけがましさ(サービス精神)と、何でもかんでも心霊的な結論に持っていくワンパターンが嫌なので、終盤にひねりがあるとはいえ、怪談会の再生テープという設定の「怪の再生」は楽しめませんでした。
「本所深川七不思議を歩く」
「大江戸ホラースポット紀行」
「日本三大怪談のルーツを探る」
「牡丹灯籠」「四谷怪談」「皿屋敷」の三つ。綺堂「番町皿屋敷」はタイトルこそ有名ですが、ストーリーは原話「皿屋敷」とぜんぜん違いました。アナザー・ストーリーという手法は歌舞伎ではよくあるパターンですが。
「悪霊・怨霊となった人びと」田中聡
タイトル通り、怨霊を総まくり。室町時代になって怨霊はスケールが小さくなってしまうというのは面白い指摘でした。