BDスクイテン『闇の国々』、アメコミグラント・モリソン『WE3 ウィースリー』。
「Four Seasons 3.25」円城塔
――Spring おれは時を逆行しようと決める。どうやって、と訊くような奴には無理な荒業だから、おれは自分の賢さに頭が呆っとなっている。この街は全ての願いを実現した最初の地方自治体だ。ただし民意の限りにおいて。
結果的に芥川賞受賞後第一作。確定記述の「隙間」へと好きなことを書き込むことでタイムトラベルを実現するのが本作ですが、偶然なのかどうか、ミステリマガジンの千野帽子の連載も「空白」についてでした。そしてまた別の小説の「隙間」を活かした結末が待ち受けていました。
「第146回芥川賞受賞者記者会見レポート」
「対称《シンメトリー》」グレッグ・イーガン/山岸真訳(Before,Greg Egan,1992)
――事故発生の報を受けて、軌道上の実験施設に向かったぼくたちが目にしたのは……(袖コピーより)
「きみに読む物語」瀬名秀明
――なぜ人は小説を読んで感動するのか?――私は大学でその謎に取り組む彼に出会った(袖コピーより)
「懸崖の好い人」三島浩司
――取材に行った盆栽展に魅せられ、私は瑞光園で盆栽を教わりたい旨を伝えた。すると長女の瑞穂は品を持ってくれば話は早いかもしれないといった。盆栽を持ってくれば筋を見極めてくれるという意味だ。その後、私が心を寄せていた次女の光が結婚することに……。
かろうじてファンタジー要素あり。動植物の成長や芸術作品の完成を人間の成長に重ねるのはよくある型ですが、盆栽というのが異色です。盆栽を育てているのではなく育てる人間を育てていると言ってしまうと陳腐ですが、一見すると植物を虐待しているように見える盆栽だからこそそう単純ではないような気がします。
「蛩鬼《キョウキ》乱舞」ジャック・ヴァンス/酒井昭伸訳
――レジリアンを採取できるティコラマ畑を格安で購入したマグナス・リドルフ。だがその農地にはディコラマを食い荒らす蛩鬼という動物が出没していたのだ。騙されたことに気づいたマグナス・リドルフは、一計を案じることに……。
ジャック・ヴァンスの異世界もの。とはいえ『奇跡なす者たち』のような作品を期待するとがっかりします。
「書評など」
◆映画はこちらも『ヒューゴの不思議な発明』『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』。
◆円城塔『道化師の蝶』、三崎亜紀『決起! コロヨシ!!2』。
◆ラノベからは『VS!!正義の味方を倒すには』泉水弐式、『時間のおとしもの』入間人間
◆『群像』2012年3月号には、岸本佐知子訳/エレン・クレイジャス(クレイギス)「ピンク色の三角」、円城塔×沼野充義対談を掲載。
◆怪奇幻想ものでは『昭和の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』、『ゴシック小説短編集』、古典新訳文庫『秘書綺譚』。『昭和の怪談実話』は幽ブックスの一冊。いわゆる「実話怪談」よりももっとへんちくりんな作品が多い。『ゴシック小説短編集』は大部の一冊。目次を見るとジョイス・キャロル・オーツが載っていたのが嬉しい。ブラックウッド『秘書綺譚』はジョン・ショートハウスものをすべて収録。
◆その他『葬式組曲』天祢涼、『ルイユから遠くはなれて』レーモン・クノー。
「なぜ鼻がもげ、火は熱くなく、水を飲むと死ぬのか」椎名誠
タイトルになっているのはいずれも極寒の地のエピソード。最後の「なぜ」には答えが書かれていません。
「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女(後編)」レイチェル・スワースキー/柿沼瑛子訳
(The Lady Who Plucked Red Flowers beneath the Queen's Window,Rachel Swirsky,2010) ――やがて召喚された世界では、男も女と同じように魔術を使っていた。わたしは男に魔術を教えることを拒むが、やがて疫病が流行りだし……。
最後は男と女どころか生物も無生物もない『火の鳥』のような世界が待ち受けていました。
「サはサイエンスのサ」(203)鹿野司
「SFのある文学誌(4)」長山靖生
一気に時代を下って安部公房。しかし安部公房をSFと言われるのは本当に違和感がある。
「大森望の新SF観光局(28)」
円城塔芥川賞と『道化師の蝶』周辺と、伊藤計劃『屍者の帝国』引き継ぎについて。
「乱視読者の小説千一夜(15) 屋根裏の狂女」若島正
ダイアン・セッターフィールド『13番目の物語』。タイトルだけでいかにも若島氏が好きそうな話です。NHK出版から邦訳あり。
「MAGAZINE REVIEW 〈インターゾーン〉誌 2011.9/10〜2011.11/12」
「錬金術師(前編)」パオロ・バチガルピ/田中一江訳(The Archemist,Paolo Bacigalupi,2011)
――魔術を使うと毒のあるイバラが生えて、今やそれが町を飲み込もうとしていた。わたしは魔術ではなく錬金術の力を用いて、イバラを根絶しようと研究を重ねていた。ジャイアラがまた咳をした……。
主要作品の作風からは想像もできない、バチガルピによるファンタジー。魔術が支配する世界で魔術が使えなくなったため、科学(錬金術)が優位に立つ。こういうのはダメ主人公が発奮する話と相性がいいけれど(のび太の宇宙開拓史とかね)、はてさて続きは――。