『S-Fマガジン』2012年7月号No.676【スチームパンク・レボリューション】

「SF IMAGE GALLERY」(7)加藤龍勇
 J・G・バラード「プリマ・ベラドンナ」。この人はカラーよりも白黒の方がいい。「龍男」ではなく「龍勇」であることに今になって気づきました。

シェリー・プリースト『ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市』紹介」
 ゾンビ×ドリルマシンという紹介だけだったら興味を持たなかったけれど、掲載されている書影が本の表紙というよりポスターみたいでかっこいいし、本誌掲載の短篇も面白かった。

「ぜんまい仕掛けの夢、蒸気機関の映画」添野知生
 「月面基地で(中略)機会を伺っていたナチス第三帝国軍が、二〇二二年のアメリカに攻めてくるというSFコメディ」アイアン・スカイ、「一見そうは見えないのだが、じつは十七世紀という時代設定や原作のストーリイをかなり尊重した」『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』。どちらも楽しそう。
 

「マッド・サイエンティストの娘たち」シオドラ・ゴス/鈴木潤(The Mad Scientists' Daughters,Theodora Goss,2010)★★★★☆
 ――わたしたちは特別なクラブを作った。メンバーはフランケンシュタイン嬢、モロー嬢、ラパチーニ嬢、ジキル嬢、ハイド嬢、アーサー・マイリンク夫人。

 見るからにフェミニンな感じで、それが同時にサロン小説のパロディにもなっています。
 

ネオ・スチームパンクとは何か?」小川隆
 特集解説。SF外のところから始まったブームに、SF作家も参入という構図らしい。SFガジェットを用いた異世界ファンタジーといったところか?
 

「リラクタンス 寄せ集めの町」シェリー・プリースト/市田泉訳(Reluctance,Cherie Priest,2010)★★★★☆
 ――ウォルターは小さな飛行船で空を飛んでいた。ガスを充填するために下りなくてはならない。何かおかしい。だれ一人下にいないのだ。死体さえも。

 『ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市』の作者による、同じくゾンビを扱った作品。前回特集に掲載された作品は甘くぬるいファンタジーでしたが、今回は正統ホラー調。静かな恐怖を感じるにつけ、ゾンビはしゃべらないのが怖いのだなと再確認。
 

「インタビュウ シェリー・プリースト ポルノグラフィと戦争」

「インタビュウ ゲイル・キャリガー お行儀を忘れないために」
 

「銀色の雲」ティム・プラット/小川隆(Silver Linings,Tim Pratt,2009)★★★★☆
 ――採雲班が渡し板で出かけ、落ちてくる銀塊がこぼれないように網を張った上で、ツルハシをふるう。空にどれだけの銀があるのかは誰も知らない。規制がなかった時代、頭上の雲を露天掘りされた小国はまるごと砂漠になったものだ。

 雲が資源であり兵器でもある世界の、国王の考える目指す道。描かれている世界とエピソードが、まるで『ワンピース』にでも出てきそうな作品でした。
 

「ぜんまい仕掛けの妖精たち」キャット・ランボー/高里ひろ訳(Clockwork Fairies,Cat Rambo,2010)★★★★☆
 ――わたしの許嫁であるデジレは、肌の色のせいで、ロンドンの社交界ではめずらしい存在だ。彼女がつくりだす精巧な機械がわたしをとりかこんだ。父親には遺産目当てだと思われているが、わたしはデジレを愛している。

 ぐっとロマンスの色が濃い作品になり、しんみりとするラスト。女性蔑視と黒人差別、科学に対する宗教の優位が根強い時代と場所が選ばれているという点で、「マッド・サイエンティストの娘たち」にも通じるものがあります。
 

「SFのある文学誌(7)白縫譚――幕末『グイン・サーガ』伝説」長山靖生

「SFまで100000万光年(106)」水玉螢之丞
 金本式年表www
 

「書評など」
◆映画からはティム・バートンジョニー・デップダーク・シャドウ、インドSF『ロボット』。「かつてのバートンなら、そういうはみ出し者である魔女にもっと思い入れを示しそうだが」……というのが哀しい。インド映画は相変わらずそうです。

◆先月号でも紹介されていたJコレクション十周年記念、倉数茂『始まりの母の国』、法条遙『リライト』。そして円城塔『バナナ剥きには最適の日々』、ピンチョン『LAヴァイス』など。岩原裕二『Dimention W』は、アフタヌーン四季賞出身とのことなので期待。
 

「河を下る旅」ロバート・F・ヤング/伊藤典夫(On the River,Robert F. Young,1965)
 ――河は自分の想像の産物だと思っていた。見ず知らずの二人が、死にゆくプロセスを寓意的なまぼろしに変えたのみならず……同じまぼろしのなかに踏み込み、そこではじめて出会うとは。

 特集とは無関係な作品。ヤング作品にしては甘さが控えめなので万人向けだと思います。
 

「ストーカー・メモランダム」ラヴィ・ティドハー/小川隆(The Stoker Memorandum,Lavie Tidhar,2012)
 ――わたしの名前はブラム・ストーカー。自分でも知らぬまに蜥蜴族の主にたいする大がかりな陰謀に与してしまい、それを防ぐ力もなかった。

 語りかけている相手がマイクロフト・ホームズだったり、ジキル=フランケンシュタイン血清といった言葉が出てきたり、いろいろとオタクっぽい作品。
 

「奇跡の時代、驚異の時代」アリエット・ドボダール/小川隆(Age of Miracles, Age of Wonders,Aliette de Bodard,2010)★★★★☆
 ――衛兵はコスティクを鎖でつないだ。群衆のなかの女が彼の名前を――コスティクではなく、昔の名前、戦士の太陽だったときの名前を――唇に浮かべた。神殿の墓はかつては生贄のものだった。機械が勃興する前には。

 過去の時代と未来を(あり得たかもしれない)機械で結びつけるのはスチームパンクの常道ですが、アステカという時と場所を選んだことで、より幻想的な部分が強まって、ひと味違う作品になっていました。
 

「現代SF作家論シリーズ(18)梶尾真治長山靖生

「八杉将司インタビュウ」「花田智インタビュウ」
 先月号に引き続いてJコレクションより。

「MAGAZINE REVIEW 〈アナログ〉誌 2011.12〜2012.3」東茅子
 クリスティン・キャスリン・ラッシュ「リトリーバル・アーティスト」シリーズの「不可能なこと(The Impossibles)」が気になる一篇です。「たいてい敗訴にしかならない大量の訴訟を抱える」「星間司法裁判所で国選弁護人として働いている」という状況で、もし敗訴になれば被告が死んでしまう事件を担当することに……。確認してみると、クリスティン・キャスリン・ラッシュは『ホームズのSF大冒険』に「脇役」の邦訳があって、それを読んだことがありました。あれはよく出来ていました。

「乱視読者の小説千夜一夜若島正

「『惑星ソラリス』理解のために(二)」忍澤勉
 

 


防犯カメラ