『ミステリマガジン』2012年9月号No.679【シャーロック再生《リボーン》】

「シャーロック再生」

「インタビュー(ベネディクト・カンバーバッチマーティン・フリーマン、スティーヴン・モファット、マーク・ゲイティス)」
 主演二人と製作者二人のインタビュー。

「ジョンの推理法修行」北原尚彦
 ――「ぼくなら自分の懐具合をよく考えて、止めておくよ、ジョン」パソコンの画面を見つめて考えに耽っていたわたしは、一瞬何を言われたのか判らなかった。

 ドイル自身によるパロディと戯曲をもとにした、ドラマ『シャーロック』のパスティーシュ――という、なかなかマニアックな一篇。
 

「顔の長い男」腹肉ツヤ子

「「シャーロック」再生 検証座談会」日暮雅通×松坂健×石井千湖
 

「邪悪の研究」ゲアリ・ラヴィッシ/堤朝子訳(A Study in Evil,Gary Lovisi,2009)
 ――夜中に訪れたハドスン夫人から「ホームズさんが逮捕されました」と聞かされたわたしは、スコットランド・ヤードのレストレード警部に会いに行った。「ホームズさんは殺人の容疑で拘留されています」

 原作ファンでなくともホームズの真意は何となくわかりますが、それにしてもホームズのやり方はあまりスマートじゃありませんね。
 

「リノの五つのリング」R・L・スティーヴンズ(エドワード・D・ホック)/日暮雅通(Five Rings in Reno,R. L. Stevens,1976)
 ――ボクシングのレフェリーを依頼されたコナン・ドイルは、殺人事件に巻き込まれる。被害者は恋人に「クリスマスの五日目を思い出しておくれ」という言葉を残していた……。

 名探偵ドイル。ボクシング小説もものしているドイルと、ホームズもの原典のあれと。
 

「『トッカン』クロス・クエスチョン」高殿円×五代ゆう×仁木英之×福田和代
 各氏による高殿氏への質問。福田和代が混じっているのが異色です。

「鉄道運転士に向かって帽子を掲げた男」ピーター・ターンブル/越前敏弥訳(The Man Who Took His Hat Off to the Driver of the Train,Peter Turnbull,2011)
 ――その男は轢かれる間際に鉄道運転士に向かって帽子をとって、「ありがとう」と言った……。

 たまたま事件にかかわり、たまたま関係者に再会しただけの刑事の視点――で語られるがゆえに、よりいっそう浮かび上がる、人生の一断片。
 

「ミステリちゃんが行く!(第5回)清涼院流水杉江松恋
 この人の自意識過剰と全能感はインタビューなんかを読む分にはホント面白い。小説だとそれが鬱陶しいのだけれど。
 

「短篇ミステリがメインディッシュだった頃(第4回)MANHUNT(I)」小鷹信光
 今回は『マンハント』。代表的な作家のうち知っているのはエヴァン・ハンター、ハル・エルスン、ジャック・リッチィ、クレイグ・ライス、の四人。この四人だけで判断しようとすると、むしろ雑誌のカラーがますますわからなくなるような。

「狩猟日和」ジャック・Q・リン/小鷹信光(A Clear Day for Hunting,Jack Q. Lynn,1956)
 ――軍隊でも殺しの腕がよければ名声を得る。おれがそうだ。戦争から戻ったおれはウェイトレスのパールに下宿を紹介され、女将のマーシアとねんごろになった。

 お金でも女でもなく、衝動によって。語り手がバカっぽいのがやけにリアリティあります。
 

「Crime Column(353)」オットー・ペンズラー
 ピーター・ストラウブの新作『Mrs God』が出た模様。ゴシックロマン。ピーター・ストラウブは最近邦訳されなくなっちゃいましたね。

「Books of the World 洋書案内」平岡敦
 前号でも触れられていたルパンシリーズ未発表作『ルパン、最後の恋』が早川書房から刊行予定。ありがたや。
 

「書評など」
アーナルデュル・インドリダソン『湿地』。これ面白そうなんですよね。創元社の単行本ってことは、ミステリというより、海外文学セレクション系の作品なのかな?とも思ったり。

◆今月の海外作品は面白そうなものが多い。同じく創元社からネレ・ノイハウス『深い疵』、H・R・ウェイクフィールド『ゴースト・ハント』。『深い疵』は、ナチスがらみの犯罪が描かれるドイツの警察小説。ナチスものは名作かトンデモかどちらかか。『ゴースト・ハント』は〈魔法の本棚〉の増補版。ウェイクフィールドはもう一冊くらいあってもいい。藤原編集室によると〈魔法の本棚〉からは今後も増補文庫版を出す予定らしいという嬉しい情報も。陳浩基『世界を売った男』は、香港ミステリ。中国語作品を対象にした島田荘司推理小説賞の受賞作。挑発的なタイトルがいい。島荘がらみはこれまた傑作かトンデモかどちらかなのですが、これはよさそうです。

キャロル・オコンネル『吊るされた女』は、マロリーシリーズ六作目。ようやくのお目見え。もう細かい人間関係の設定とか忘れてしまったよ。一作目から読み返すしかない。『特捜部Q Pからのメッセージ』ユッシ・エーズラ・オールスンは、特捜部Qシリーズの三作目。いろいろ評価が高くて現時点での代表作みたいな評も聞こえるのだけれど、個人的にはすでにパターン化してしまっているのが気になりました。というよりもむしろ、パターンを楽しむタイプの作品を目指しているのかな。

◆国内からは青春ミステリ二作。『夏休みの拡大図』小島達矢、『星を撃ち落す』友桐夏。『夏休みの拡大図』は日常の謎もの。謎解きよりも「スマートな設定と清々しいプロットを楽しむのが正解」とのこと。友桐夏「少女の心理を掘り下げる作風」って、わたしの好きなタイプの作風なので、俄然興味が湧きました。うえむらちか『灯籠』は、先月のSFマガジンで紹介されていました。片山若子がカバーイラスト。

道尾秀介『光』。道尾氏はいまもっとも安定感のある作家さんだと思います。とはつまり、名前で買ってはずれのない人、ということで。

『ヘンたて』青柳碧人、『生者の行進』石野晶も、うえむらちか『灯籠』と同じシリーズの作品で、同じく先月のSFマガジンで紹介されていました。石野氏は日本ファンタジーノベル大賞優秀賞の作家さんなのか。幻想系なのかファンタジー系なのかが気になるところ。

『判事と死刑執行人』デュレンマットです。風間賢二氏も書いているように、デュレンマット作品が各社で刊行されていて、ありがたいことです。そして神林長平『ぼくらは都市を愛していた』は、「いま集合的無意識を、」で書くと言われていた長篇。

  


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