『殺す』J・G・バラード/山田順子訳(創元SF文庫)★★★★☆

 『Running Wild』J. G. Ballard,1988年。

 新興住宅街で起こった何者かによる大人鏖殺と子ども誘拐事件。解決の目処も立たないまま、事件は首都警察精神医学副顧問グレヴィル博士に引き渡された――というミステリ仕立てで本書は幕を開けます。

 まるで現実の猟奇事件を扱ったノンフィクション・ノヴェルでも読んでいるような、それこそ報告書のような残酷描写には、胃が酸っぱくなるような不快感も覚えてしまいます。

 現代社会の告発という点では、本書はかなりわかりやすく、あまりにもナイーブかつストレート。『クラッシュ』みたいなわかりにくすぎるのもそれはそれで困るわけですが。

 グレヴィルの日記という体裁が取られているため、すべては博士の推論に過ぎず、「子どもたちは複数の犯人に誘拐されたと信じている」人たちの方が正しい、という可能性も形のうえでは残されているところに、決して表には出ることのない真実(かもしれないこと)のいっそうの闇を感じました。

 6月の土曜日の朝、ロンドンの超高級住宅地で住人32人が惨殺された。高い塀と監視カメラに守られた住宅地で、殺されたのはすべて大人。そして13人の子どもたちは何の手がかりも残さず、全員どこかへ消えていた。誘拐されたのか? 犯人はどこに? 2カ月後、内務省に事件の分析を命じられたドクター・グレヴィルは現場を訪れるうちにある結論に到達する。鬼才が描く現代の寓話。(カバー裏あらすじ)

  [honto]


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