『ミステリーズ!』vol.54 2012年8月【ファンタジー&怪奇の調べ】

「私の一冊」勝山海百合
 水見稜『マインド・イーター』。「「憎悪の谷」にはロードムービーの趣が」あるというのに興味を惹かれます。
 

「美しい雪の物語」梓崎優 ★★★★☆
 ――コーヒーの白い花を目にするのは簡単ではない。すぐに散ってしまうその花は、コナ・スノーと呼ばれる。少女は物置のなかで見つけた日記を読み始めた。……プレゼントにカメラをもらった僕は、写真にはまったことがある。だけど写真にはコナ・スノーの美しさは収められない……。

 「ナプキンでできた鳥」にしても、「戦争」や「映画」にしても、日記が途絶えた理由にしても、日記に書かれた事実の意味をいかに受け取るか――という点で非常にミステリ的な作品なのですが、それを先鋭的な感じではなく飽くまで日常の謎ふうに(あるいは謎ですらなく)描いているところが面白いと感じました。敢えてカタカナで書かれた最後の一言が印象に残ります。
 

【ファンタジー&怪奇の調べ】

「紐結びの魔導士」乾石智子
 ――貴石占術師のカッシは、エンスとリコの持っている「炎の玉髄」を欲しがっていた……。

 ファンタジー編。異世界を舞台に威勢のいいあんちゃんが主人公という、いかにもなファンタジーで、こういうのは苦手でした。

ブリストル訪問記」原島文代
 

「私はこれが訳したい(5)」高田惠子
 乗馬が趣味のため馬の調教法の本。雑誌が雑誌だけに、編集者も未訳のミステリとかを期待してたと思うのですが……。
 

「ねじまき片想い 宝子のおもちゃ事件簿(2)」柚木麻子 ★★★★☆
 ――片想いの西島に彼女ができたことがわかっても諦めない宝子は、野球チームの応援にお弁当を作って行ったが、なぜか西島の彼女・都も応援に参加していたために、ますます落ち込んでしまう宝子。だが後日、町で目撃した都は、「夫」と一緒だった……。

 個別のタイトルがなくなり、「事件簿(第2回)」となりました。今回も日常の謎を犯罪に結びつける手際がとても自然で、さらには今回も謎のヒーローものでもありました。日常の謎の場合、名探偵の存在が日常にそぐわなくネックだと思うのですが、この作品のように「人知れずこっそり」だと推理を開陳する必要もないわけで、仮面をかぶるのはただ単に玩具会社だから、というだけではないようです。
 

魔の山の殺人』(5)笠井潔
 ――ナディアは精神医のヴィゴに、自分の考えた本質直観を聞かせてみた。「ジゼールの死とジュリエットの死の類似性」。やがてナディアはカケルとともに〈アトリエ〉の宿泊客を訪れ、魔女狩りについて話し合った。近代的な精神を持った十六世紀の著作家が、同時に魔女狩りに関する本を書いた理由は……。

 今回は議論編。ワトスン役が支点的現象に「死の類似性」を選んだ以上、普通なら正しいのは「殺人現場からの犯人の消失」だった、ということになりそうなのですが。はたしてまったく別の考え方もあるのでしょうか。議論は面白いけれど、伏線だったりするかもしれないので、忘れないように要注意。
 

「こそどろストレイ」相沢沙呼 ★★★☆☆
 ――私は加奈ちゃんと一緒に百織《しおり》さんの家に遊びに向かった。もうすぐ四月だというのに、一面真っ白な雪で覆われている。人生ゲームを取りに行ったときに、百織さんのお父さんが買った花器が蔵から消え失せることがわかった。なのに雪には足跡がなかった……。

 雪密室からの器物消失。タイトルの「こそどろ」や近所で増えている泥棒という誘導が効果的でした。読み終えてみると「ストレイ」なんてすごくギリギリなタイトルに思えて、実は「こそどろ」に先入観を植えつけられていたとは。

 語り手の名前が途中で明らかにされるのにはどういう意味があったのだろう。兄弟の不和・愛情に悩み、百織さんの姉のことも冷たい人間だと思っていた語り手が、「あ、覚えていてくれたんだ」とハッとしたということでしょうか。百織という名前も変わっていますし、何か意味があるのでしょうか。
 

「類似の伝言」西澤保彦 ★★★☆☆
 ――これは、まさか、ダイイング・メッセージ? 被害者が血で書いた○のような形。防犯カメラには不審な女が映っていたが、聞き込みを続けても被害者には女の気配がない。十二年前のモデルである、ヴァレンタインのクマのぬいぐるみを除いては……。

 音無警部もの。ダイイング・メッセージのメッセージたる所以や、犯行の歪んだ動機など、いかにも西澤作品といったひねくれ具合です。クライマックスで披露される真顔のギャグ。クライマックスであるだけに、かっこいい台詞に思えてきてしまう。。。
 

「怪奇翻訳温故知新」西崎憲・藤原編集室
 ここからふたたび特集に戻る。今度は怪奇編。西崎憲インタビューに、藤原氏が飛び入り参加。全三巻のアンソロジー『怪奇逍遙』&シャーリイ・ジャクスン短篇集が刊行予定! それぞれ先行掲載とのこと。
 

「案内人」ロバート・エイクマン/西崎憲(The Cicerones,Robert Aickman)★★★★★
 ――観光地の建物は十二時から閉鎖される。あと三十分もない。トラントは大聖堂に足を踏み入れた。静かだ。説教壇について考えはじめたとき、驚くべきものが目に入った。たしかに人の姿があった。けれどそれは直立していなかった。倒れかかるように傾いで立っていた。笑い声が聞こえた。トラントは振り返った……。

 実は真っ先に連想したのが、映画『シャイニング』でした。現れては消えるこの世ならざる住人たち、と、(教会の)荘厳な雰囲気、に、どうやら通い合うところを感じたようです。作品内に出てくる絵画、登場する人物がそれぞれ何を意味するのかがわからないのでもやっとした感覚が残ります。もやっとするのがエイクマンのよさとも言えますが。
 

「プシュケー」アーサー・キラ=クーチ/西崎憲Psyche,Arther Quiller-Couch)★★★★★
 ――男は蒸気機関車の機関士だった。赤い光が見える。「劇場が燃えている。もう百人焼け死んだ」。機関士の妻はその夜、観劇に行くことになっていた。けれど、男が機関車を降りてしまえばそれを動かす者はいない。……翌朝、男はいつものように駅に向かい、その明くる日、鉄道会社をやめた……。

 主人公が仕事を優先した理由からも、真面目なのが伝わってくるため、たがが外れてしまったことにいっそうの憐れみを感じずにはいられません。一般に「狂人の論理」と言いますが、初めのうちは「ただの気違い」にしか思えなかった行動に、わりと有名な伝説に基づく「狂気の理由」が隠されていたことがわかると、感涙を禁じ得ませんでした。
 

「お決まりの話題」シャーリイ・ジャクスン/市田泉訳(The Story We Used to Tell,Shirly Jackson)★★★★★
 ――これはYとわたしのお決まりの話題。静かな夜、月光が移ろう中、ささやき交わした……。覚えているかしら、とYはいう。この家で。あの夜に。「この屋敷の絵よ。夫の祖父が改築する前の」「古くて美しいお屋敷ね。変えてしまったのが残念なくらい」「配管工事のためよ」

 絵のなかに取り込まれるという古典的な怪談話ながら、登場人物がこういう選択をするところに、やはり『ずっとお城で暮らしてる』の著者による作品なのだと納得しました。友だちとの永遠の語らいは蜜の味――ガーリーな雰囲気でありながら、実は夫がいる年齢であるところに、狂気を感じます。
 

「銃の細道(1)」小林宏
 以前ミステリマガジンで連載されていた方です。第一回目はリボルバー
 

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション(5) クライム・クラブ編4」川出正樹
 今回はサスペンス編。『藁の女』『死刑台のエレベーター』『殺人交叉点』『歯と爪』『彼の名は死』『夢を喰う女』『悪の仮面』『盲目の悪漢』。こうして見るとすごい面子です。

 


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