『蜃気楼の帯』戸川昌子(講談社文庫)★★★★☆

 主にサスペンスを得意とする著者の、国際謀略小説。

 セネガル大使館職員の八田一郎が深夜に海水浴をしていると、ヘリコプターが潜水艦から一人の人間を引き上げて行った。見てはいけないものを見た――と直感した八田だったが、ヘリコプターが箱を落としたことに気づき、そっと箱を持ち帰った。箱の中身はゴリラの掌の剥製だった。同じころ、亡命した前ガーナ大統領ラングルマとの極秘インタビューに赴いていたアナウンサー藤野絵里子は、バスのなかで相席した黒人から押しつけられた荷物のために税関で足止めを食らっていた。荷物のなかにはゴリラの掌が入っていたのだ。バークレー大学でゴリラの生態を研究している古瀬谷章次教授も、バスで絵里子と同席していたが、何者かに睡眠薬を飲まされて飛行機に乗りそびれてしまう。ところが――二人が乗るはずだった飛行機が、飛行中に爆発したというニュースが飛び込んできた。すべては何者かによる陰謀なのか――。やがて古瀬谷教授は地元の狩猟官の協力を得て、野生ゴリラの交尾を目撃することに成功していた。同じころ、絵里子はラングルマ前大統領へのインタビューで帰国と復帰の意思を聞き出していたが、その直後、ゴリラに襲われ前大統領が連れ去られた――!?

 真相はこのジャンルの作品では一つのパターンである陰謀論です。パン・アフリカン主義者の前大統領の復権によってアフリカ勢力が力をつけることを恐れた某二大大国の仕業だったのですが、ここらへんはまあ誰が黒幕でもいいような話なので構いません。しかしながら陰謀にしては「何でわざわざ!?」というサービス精神にあふれた手段が使われており、まったくもって意味がわかりません(^_^;。ゴリラの掌は政治組織のなかで割り符のような役目を果たしていることが明らかになるのですが、どうやら著者はゴリラづくめにしたかったのでしょう。実際のところ、そのゴリラづくしのおかげで作品に一本の筋が引かれ、「ゴリラの意味するものは何なのか?」というような謎めいた緊張感が生まれていました。

 それにしても古瀬谷教授は「大統領はゴリラにさらわれた」という表向きの真相に利用されたのかと思いきや、利用されたのは確かに利用されたのですが、表向きどころか真の真相だったというのは、う〜ん何なんでしょうね。やっぱり著者のサービス精神なのかな。

  


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