「夜の夢見の川」カール・エドワード・ワグナー/中村融訳(The River of Night's Dreaming,Karl Edward Wagner,1981)★★★★☆
――護送車が転落したのに乗じて彼女は湾を泳いで逃げ出した。たどり着いたのは老婦人とそのメイドらしき娘の住む家だった。
ゴシック・ロマンス的な雰囲気から一転、エロ・グロ・レズ・SM・サイコ……と畳みかける終盤には眩暈を覚えました。
「死にたくない」リチャード・マシスン/安野玲訳(He Want to Live,Richard Matheson,2002)★★★☆☆
――もしも屋根が落ちたら。ひげを剃っていて喉を切ったらどうしよう。線路に落ちたらどうしよう。事故が起こったら……。
こんなことを考えちゃって、実際に書いてしまうのがマシスンです。
「ハワード・カーリックスの眼」ティム・クーレン/夏来健次訳(The Eyes of Howard Curlix,Tim Curran,2005)
――週刊誌の副編集長が会いに行った男は、光の速度を低下させる実験をしていて、この次元と別の次元のあいだに穴を開けることに成功した、と言った。
またクトゥルー……。
「黒いモスリンの小さな穴」サイモン・ストランザス/増田まもる訳(Pinholes in Black Muslin,Simon Strantzas,2008)★★★★★
――スチュアートは夜空を見上げた。書店の同僚フィリップにむりやり休暇に連れ出されたのだ。夜中に目が覚めると、トレヴァーも起きていた。「ひゅーひゅーする音のせいで眠れなかったんだ」 朝になってもトレヴァーは姿を現さなかった。
人づきあいの悪そうな主人公、オゾン層の破壊、夜中に聞こえる音……不穏な空気が一気にはじけて人々を襲う巨大な存在は、凡百のモンスターなど及びもつかない絶望感に満ちていました。
「ジライヤ怪奇帖 「悪戯」「魔女の瓶」」シェーン・ジライヤ・カミングス/植草昌実訳(Practical Joke/Spin the Witch Bottle,Shane Jiraiya Cummings,2009)
――子供たちは母親を驚かそうと箒の先に仮面をぶらさげた。掃除中の母親は、排水口から触手が伸びて来るのを見た。
オチがわかりづらいのですが、どちらも「人を呪わば……」的なオチなのでしょうか。
「死ひと使い」レイ・ブラッドベリ/伊藤典夫訳(The Handler,Ray Brarbury,1946)
――ベネディクト氏は遺体仮安置所に入った。「ミセス・シェルマンド。お高くとまっていたあなたには、脳の代わりにホイップクリームを入れてさしあげましょう……人種差別の王者ミスター・レン、防腐剤の注入をはじめますかな……」と言ってインクを入れた。
『Dark Carnival』には収録されているものの、日本版『黒いカーニバル』『10月はたそがれの国』には未収録の作品を新訳で。卑しくしがない小市民の気持悪い趣味の果てに訪れたのは、恐怖や戦慄はもちろんのこと、よくできた手品を見ているようなすっきりとした納得感でした。
「献花はたんぽぽにかぎる」中村融
「不死者の祝福」井上雅彦
「たんぽぽを手向けて」松坂晴恵
「私の偏愛する三つの怪奇幻想小説(3) その作品のみを愛す」三津田信三
「ファンタスティック・シネマ通信(3)」鷲巣義明
ナチスが月の裏側に逃げて軍事基地を作っていた……というコメディ『アイアン・スカイ』。