『小説新潮』2013年2月号【推理小説的日常《ミステリーライフ》】

 麻耶雄嵩の新作が載っていたので購入。

「五十二年目の遠雷」伊予原新 ★★★★☆
 ――「雷を探してくれ」探偵事務所を訪れた男性はそう言った。五十二年前に神社で起こった火災。火の気がないことから、放火か落雷が原因と思われていたが、それを改めて確かめてほしい……。

 「雷を探す」という魅力的な冒頭の謎。依頼の裏にある真の動機。何段階かの手がかりから導き出される手順を踏んだ真相。お手本のようなミステリでした。
 

「手の中の空白」白河三兎 ★★☆☆☆
 ――観覧車にICレコーダーを仕掛けて客の会話を盗み聞きする趣味を持った俺が、バイトの後輩である女子大生から相談を持ちかけられた。要領を得ない会話に頭が痛くなるが……。

 まんまラノベ、という感じの作品です。真実を知っているのに信じてもらえない、あるいは伝えられない理由がある――というのはサスペンスなどの定番ですが、そんなジレンマを無効化するヒロインの破壊力には参りました。
 

「水底の鬼」岩下悠子 ★★★☆☆
 ――ドラマスタッフが骨董屋で見つけた鬼の面にはいわくがあった。平安時代、優秀な医師の息子が荒れて村を出た。その後、村を襲った男の仮面を剥いでみれば、医師の息子だったという。面には一口《いもあらい》と銘があった。

 いかにも脚本家の作品らしい中間小説的な筆致で物語は進んでゆきながら、鬼となる人間心理をめぐって視点によって二転三転しながら、由来譚を通じてミステリ的に着地する展開には驚かされました。
 

「小諸―新鶴343キロの殺意」乾くるみ ★★☆☆☆
 ――新興宗教幹部6人が他殺体で見つかった。かたわらにはゴルフクラブマンドリンなど、奇妙な「凶器」が……。何かの見立てか……? 教祖夫妻と管理人だけが行方不明だった。

 狂った論理(というより、駄洒落とこじつけ)によって進む事件の行方。被害者と加害者がどちらも。。。な方たちなので、予想外なのは間違いないでしょう。
 

「担保調査の彼女」日明恩 ★★★☆☆
 ――引っ越しの挨拶を兼ねて勤め先の信用金庫の営業をしていると、同業者らしき女性が家の写真を撮っていた。担保物件の調査だろうか。

 詐欺師より 口が立つなり チキチョウ部。ストーカーに遭っているという男の言い分、お金を騙し取られたという女の言い分、瞬時に的確な判断を下し、行動力も併せ持っている、というのは、実は御手洗潔なんかと一緒のタイプの名探偵なのかも。
 

「エンゼル様」真梨幸子
 

「スモーキー」新野剛志 ★★★☆☆
 ――貴士がフィリピンで殺された事件で、殺人を依頼したのは日本人であるらしかった。友人だった「何でも屋」のコウジは犯人を追う。

 美意識の価値観が山田詠美みたいでまぶしい。こだわり、というよりは、ロボット三原則みたいな仕掛けからして、別世界でした。
 

「最後の海」麻耶雄嵩 ★★★☆☆
 ――地元病院の次男・枇杷司は美大を目指していた。だが長男・理が警察に追われ、父親の枇杷氏は司に家を継ぐことを命じた。町の者が理狩りに集まったその翌日、枇杷氏は首つり死体となって見つかった。

 ここにきて型をずらしてきました。といっても、「それ」が型になってしまっている時点で普通じゃないのですが。しかし真相を明らかにすることで、司は家を継ぐしかなくなってしまうのですね。。。いかにも作りもののミステリ、といったやらずもがなの人工的かつ凄惨なアリバイトリックですが、麻耶作品に現実的かどうかを問うのは意味がないのでしょう。
 

 


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