『ミステリーズ!』vol.57【創元SF50周年】

 SF特集の余波? 笠井潔魔の山の殺人」は休載。

「百々似隊商」西島伝法
 ――溟渤《めいぼつ》を渡るために地面に張り渡された軌綱は、百々似《ももんじ》の腸繊維を縒り合わせて作られる。百々似を養生塁に収めるのが利塵師《りじんし》の仕事だ。「情を移すんじゃない」利塵師に弟子入りした宇毬《うまり》はそう言われた。

 第二回創元SF大賞受賞作家の新作。独自の世界と用語は慣れるまでは読みづらいけれど、慣れるまでの辛抱。伝奇ともファンタジーとも言い難い異様な世界に引き込まれます。
 

「ドリーム作家のジレンマ」ロイス・マクマスター・ビジョルド/小木曽絢子訳
 

「ボールが転がる夏」山田彩人
 ――俺の名は姫山誠。刑事である。男が腹を刺されて死んでいた現場は、ドアの内側にワインボトルが立ててあり、倒さずに開くことは不可能だった。俺は退職した元刑事・綾川さんの許を訪れた……。

 女子高生ひきこもり探偵。せっかくのひきこもりなのに安楽椅子探偵じゃないのは、ひきこもりから抜け出すというプラスの意図が著者にあるのかないのか。
 

ゴーストライターアンドレアス・グルーバー/酒寄進一訳(Ghost Writer,Andreas Gruber,2011)
 ――あのベストセラー作家はただの一度も使い物になるアイデアを出したことがない。ピギンスは自分が黒衣として働いていることに忸怩たる思いがあった。だが彼にも思いのままに書いた小説が一篇あった。編集者のサマンサにチェックしてもらえば、自分にもオスカー・ワイルドになるチャンスがある。

 オーストリアの作家による二篇。自著を夢見るゴーストライター。こういうのはたいてい皮肉な結末が待っているものなのですが、これは予想外でした。
 

「メスメリズムの実験」アンドレアス・グルーバー/酒寄進一訳(Mesmeristische Experimente,Andreas Gruber,2002)
 ――ウェルズが小説の題材を見つけるため訪れた横丁には、メスメルという名の男がジャックという従者をしたがえて「予言」をおこなっていた。

 二重三重のパロディ。単になぞるだけではなく、ゲスト出演させるだけでもなく、あるべきところにあるべきピースが嵌る構成という肉づきが、愛情という骨組みにしっかり根づいています。
 

「届かない招待状」芦沢央
 ――互いの結婚式には呼び合おう。同じサークルの友人たちと、暗黙の約束をしていたはずなのに――。彩音の結婚式に、私だけが呼ばれなかった。そして覗き見た夫の携帯……。

 読み終えてみれば恐ろしいほどにあからさまな伏線なのに、昨今のイヤミス流行りもあるせいか、すっかり誤誘導されてしまいました。一人称なので語り手がどこまで信頼できるのかもわかりませんでしたし。
 

「銃の細道(4)」小林宏
 ジェイムズ・ボンドがワルサーに銃を変えた顛末と、オートマチックの弾切れについて。

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション(8) イフ・ノベルズ(2)」川出正樹
 アンソロジストとしての各務三郎について。エラリイ・クイーン「動機」や、『怪奇ミステリ傑作選』収録作は読んでみたい。

「書評など」
 「ねじまき片想い」が連載されていた柚木麻子氏の新作『私にふさわしいホテル』などが刊行されてます。

 


防犯カメラ