『ミステリマガジン』2013年5月号No.687【没後十年 都筑道夫が僕らに教えてくれたこと】

「『道尾』の由来は『道夫』から〜道尾秀介に訊く」

「ミステリマガジン初代編集長の出来るまでとその後」新保博久

「都筑チルドレンの系譜」日下三蔵

「砂絵のセンセーの名前」堀燐太郎
 

「温泉宿」都筑道夫
 ――温泉宿をさがす男と女。だが番頭は二人を見るなりおびえた表情をして泊めるのを断った……。

 「はだか川心中」の原型短篇。不思議な話、を、人生の機微、みたいな形に収斂させてしまうところが、怪談好きとしては物足りないのですが、普遍性は持ち得ているところなのでしょう。
 

「女か西瓜か」加田伶太郎
 ――パラソルの男女が何処からともなく西瓜を取り出して食べ始めた。中学生の雄ちゃんたちは、それをうらやましそうに見ていたが、気づくと女の姿がない……。

 都筑道夫曰く「フェアに手がかりが書きこんである」ので考えれば「結末が、わかる」タイプのリドル・ストーリー。著者&都筑による解答は新保教授の解説に。ネット上では別解も。女は(まだ)死んでいないのだから、違っていても「間違いだった」で済む話なのに、このサスペンスは凄いと思う。
 

「蛇」ジョン・スタインベック都筑道夫(The Snake,John Steinbeck)
 ――フィリップス博士が海盤車《ひとで》の生殖実験の準備をしていると、背の高い女が現れた。「ガラガラ蛇を売ってくださる? 餌をやりたいんです。鼠を入れてください」

 ポケミス『幻想と怪奇2』に収録。同書収録「ミリアム」は文春文庫のアンソロジーで読んで衝撃を受けたものです。敢えて『蛙』「に近いくらい(新陳代謝が)低いらしい」と書くあざとさ、博士自身(著者自身)が「心理学的なセックス・シンボル」の可能性を否定していたりと、原作からして一筋縄ではいきません。
 

「月は六月その夜闌けに」レイ・ブラッドベリ都筑道夫(A Midnight in the Month of June,Ray Bradbury)
 ――いつまでも、いつまでも、待っていた。「おやすみ!」と彼女が言うのを聞いた。彼女は近づいてくる。もう一マイル。あと千ヤード。

 2012年10月号「山口雅也責任編集」に再録された「町みなが眠ったなかで」の続編。あれの続編をというエラリイ・クイーンも無茶ぶりですが、それに答えてしまうブラッドベリがすごい。
 

「海外ミステリーの近況」植草甚一×都筑道夫×田中潤司
 

「短篇ミステリがメインディッシュだった頃(12・最終回) 黄金時代の幕切れ」小鷹信光
 黄金時代の終わりとともに、連載も最終回。「紙の雑誌の時代はまさに終わりかけているのだ。」という言葉で結ばれます。 

「神童」ジョナサン・クレイグ/加賀山卓朗訳The Prodigy,Johnathan Craig,1966)
 ――ルイーズはまた悪夢を見た。わたしたちのデビー。読んだものは残らず記憶し、一度聞いただけでピアノを弾ける、天才娘。母親をこれほど無能だと感じさせる娘がいるだろうか。

 テレビで見た「天才少年」の両親は、失笑されてるガリ勉みたいな変な空気を醸し出していたけれど、少しぐらい変でなければ耐えられないものなのかもしれません。
 

「分のいい取り引き」リチャード・デミング/小鷹信光(The Better Bargain,Richard Deming,1956)
 ――妻が浮気していることを知った暗黒街の帝王キング・ルイスは、殺し屋シルヴァーに妻と男の殺害を命じた。

 よくできてはいますが――いや、そこじゃないだろ。とツッコミたくなるような落ちに思わず笑ってしまいました。
 

フィルム・ノワール ベスト・コレクションDVD-BOX」 滝本誠によるエッセイ掲載。『さよなら、愛しい人』の映画化『ブロンドの殺人者』や、ウールリッチの『黒い天使』
 

「迷宮解体全書 63 大倉崇裕」村上貴史
 福家警部補シリーズは食い足りない印象があったのだけれど、改めて読んでみたくなりました。
 

「幻談の骨法 33」千野帽子
 ソーントン・ワイルダーサン・ルイス・レイ橋』とアルベール・カミュ『異邦人』
 

「書評など」
『厭な物語』、オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』。ブームになるとどうしても「単なる後味の悪い話」も湧いてくるなかで、精華集が出るのは嬉しいところ。そして悪意・悪夢とくればこの人、ジョイス・キャロル・オーツの自選短篇集。新藤卓広『秘密結社にご注意を』は、「巧みな構成」「トリッキーな構成」これは読んでみたくなります。
 

アルモニカ・ディアボリカ』(5)皆川博子

「ミステリ ヴォイス UK(65) 刑事コロンボの誕生」松下祥子 書き下ろし短篇集が論創社から夏に刊行予定。

 


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