「柩職人の娘」アンジェラ・スラッター/田村美佐子訳(The Coffin-Maker's Daughter,Angela Slatter,2011)★★★★☆
――わたしはダギラール家を訪れた。八ヶ月前に死んだ父なら勝手口から訪ねただろう。父が不愉快そうに鼻を鳴らしたが、わたしは返事をしなかった。「頑丈な柩をつくってちょうだい」ダギラール家の娘リュセットから掌に唇を押し当てられると、その柔らかさにわたしは息もできなくなった。
英国幻想文学大賞受賞作。町で唯一の柩職人のたつきを描いたゴス百合作品。死んだ父親・ヘクターの茶々が入ったりと、厳粛であるのは死そのものではなく職人としての心得であり、シリアスなのはお嬢様との性愛であったりします。
二年目の第一弾は意外な切り口で「サイバーパンク/SFホラー」特集でした。サイバーパンクはどうも苦手です。。。
「エレクトリック・アイ」ローレル・ハルバニイ/増田まもる訳(Electric Eye,Laurel Halbany,2011)
――ぼくはAIの扱いがほんとうに上手だった。あのときはまだ映画スターのハディージャに会っていなかったけど、彼女がぼくに恋することは知っていたんだ。ぼくはハディージャをさがしにでかけた。サメディを使えばむずかしくない。
町なかに溢れるAIをハッキングしてつきまとうストーカー。
「切断された男」ブライアン・M・サモンズ/野村芳夫訳(Disconnected,Brian M. Sammons,2006)
――見つかった死体には首がなかった。
むしろ懐かしい香りさえある、宇宙人による脳髄移植。
「快楽空間」グリン・バーラス/植草昌実訳
――家宅捜索に入ったチェイドがサイトにアクセスすると、裸になっていた。
とてもリアルな仮想空間の話ですが、どうもこの手の話はギャグにしか見えなくて……。
「ブージャム」エリザベス・ベア&サラ・モネット/安原和見訳(Boojum,Elizabeth Bear & Sarah Monette,2008)
「夢の窓」ロバート・ブロック/安野玲訳(The Unspeakable Betrothal,Robert Bloch,1948)
――病がちのエイヴィスはベッドで休んでいた。そうしていると、夢が窓を抜けてくる。ぶんぶんいう声。黒いピラミッドには目玉のついた腕が生えていた。だが、いやな感じもこわいこともなかった。マーヴィンにその話をすると、やめてよ、と言われたものだが。
「ラヴクラフトからハリウッドまで」ロバート・ブロック・インタビュー/聞き手ダレル・シュワイツァー/棚藤ナタリー訳
この号から「夜の声」と題して、短篇のほかにインタビューも訳載が開始されました。『サイコ』のことや脚本のこと、ホラーのことやSFのことなど、かなり長めのインタビューでした。夢見がちな子どもの幽玄な「夢の窓」を敢えてキワモノめいた結末にしてしまうサービス精神がブロックなんだろうなあと思います。
「海の視線」小松左京
――そこは一面の砂漠だった。彼が見たのは奇妙な夢だった。ガチャン! 大霊能者クラリス夫人が、海の底に「何か」を見て、グラスを落とした。
こちらも新企画。「センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー」と題して、SFホラー一篇と解説が付されています。海底に潜む古き邪神……と思えたものが、SFとして着地するという読後感は、解説者の井上雅彦氏のミスリードにしてやられました。
「PLAY OF COLOR」石神茉莉
――妻、彩子が姿を消したこと。彩子が大切にしていたオパールの指輪がその貌を変えたこと。無関係とは思えなかった。その指輪を持って訪れたのは、廃墟の外れにある玩具館だ。少女と年齢不詳の男性が迎えてくれた。
『盗まれた街』や「父さんもどき」のような、自分の近しいものに感じる違和感は、飽くまで自分が正常だという前提でこそ呼び起こされる恐怖でした。本篇の怖さは母と妻と我が子が人間ならざるものではないかという疑惑以上に、そうした前提をこそひっくり返される点にありました。
「勢いのある新創刊の中国ミステリー・ホラー雑誌」立原透耶