「学園ミステリという解放空間」中辻理夫
『ミステリーズ!』には珍しく、ちゃんとした特集解説がついていました。最近の学園ミステリの概説と、盛り上がりを見せる理由についての私見が紹介されています。ほとんど知っている作品でしたが、初野晴『退出ゲーム』シリーズと、門井慶喜『パラドックス実践 雄弁学園の教師』は知りませんでした。
「もう一色選べる丼」青崎有吾 ★★★☆☆
――窓の外に置き捨てられた食器。しかも中身が残されていた。食器を戻さない者がいれば一か月間は学食の持ち出し禁止。みんなが迷惑する。柚乃と早苗は居合わせた裏染に「犯人」探しを依頼する。
『体育館の殺人』作者によるシリーズ短篇第一作。偏屈な探偵という伝統は踏襲しながらも、お金をほしがるアニメオタクという、名探偵史上では特異な位置を占める裏染ですが、意外と普通の高校生でもありました。犯人の動機もこれまた高校生らしいもので、学園ミステリ特集に相応しい短篇といえるでしょう。利き手をめぐる推理はこの手のなかでは説得力がある方だと思いました。
「狼少女の帰還」相沢沙呼 ★★★★☆
――琴音が教育実習を受け持った学級には、咲良《さくら》という落ち着きのない子がいた。食器の音が響き、咲良が教室を飛び出していった。「あの子いつもそうなんだよ」「まいなの家で遊んだとき――」大人びたまいなの声が遮った。「やめてよ。あんなの咲良の嘘だから」
人間の思い込みを用いた錯誤に、子どもによる目撃情報というフィルターを通すことでさらなるバイアスがかけられ、しかもその子は「嘘つき」というレッテルを貼られた少女。学園ミステリ特集の一篇ですが小学校しかも教育実習生視点です。高校生ミステリのシリーズを持っている著者が敢えてこういう作品を特集に寄せることで、学園ミステリの幅が広がりますね。例えば加納朋子「白いタンポポ」なんかも。傷つきやすいしおんちゃんなど、子どものめんどくささ(^^;がよく描かれています。
『武蔵野アンダーワールド・セブン【多重迷宮】』(01)長沢樹
――爆発テロがきっかけで経済と文化の中心が武蔵野に移った現在。元政治家の娘・御坂摩耶が相続した別荘の「お宝」である地下シェルターを探すべく、藤間秀秋・七ツ森神子都《みこと》・綾瀬鶫は別荘に向かった。
新連載。こういう設定のごちゃごちゃした作品を連載で追うのはつらい。
「私はこれが訳したい(9)」夏来健次
『怪樹の腕』に引き寄せて、「ゲテモノ作家」デイヴィッド・J・スカウ『The Shaft』。
「街場《ストリート》ではなく、路地でもなく」宮内悠介講演
「(池田晶子記念)わたくし、つまり Nobody 賞」受賞記念。Nobody、Nowhere、そして Nothing について。
「六百の鍵穴がある小箱」バルドゥイン・グロラー/垂野創一郎訳(Das Geheimnisvolle kästchen,Balduin Groller,1912)
――個人秘書が金庫の金を持って逃亡した。妻も一緒だった。すべてはわたしの計画通りだった。ついては二人を追跡してほしい……と、アンツバッハ伯爵はゴダベルトに依頼した。一緒に持って行かれた小箱が問題なのだ。
オーストリアのコナン・ドイルと呼ばれた著者のシリーズ。「怪作すぎ」るゆえ創元推理文庫の短篇集には収録しなかった作品だそうです。オーストリアの「ホームズ」ではなく「ドイル」なんですね。上っ面の言葉のやり取りが延々と続けられて話がなかなか進みません。
「銃の細道(5)」小林宏明
今回は特定の銃についてではなく、アメリカの銃規制について。
「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション(9) イフ・ノベルズ3」川出正樹
おもにステーマン『三人の中の一人』、クロフツ『スターベルの悲劇』、チャーリン「アイザック・シーデル・シリーズ」、ブューアル『暴走族殺人事件』について。
「レイコの部屋」
番外編「光文社三賞贈呈式」の様子。