『リアル・スティール』リチャード・マシスン/尾之上浩司編(ハヤカワ文庫NV)★★★☆☆

 「四角い墓場」映画化に合わせて「リアル・スティール」と改題のうえ、新たにほかの短篇を加えたものだそうです。B級集かな。初めて読むのなら『運命のボタン』の方をおすすめします。

リアル・スティール」尾之上浩司訳(Steel,1956)

 上述の理由でわりと最近読んだものなので今回はパスします。
 

「白絹のドレス」伊藤典夫(Dress of White Silk,1951)★★★☆☆
 ――ここは静か、あたしだけ。おばあちゃんがここに閉じこめて出してくれない。きっと、あたし、悪いことしたんだ。ただドレスのことだけなのに。あのママのドレスのこと。

 見るからに危うい語り手の狂気ホラー。一人称の「あたし」という幼なげな呼称がいっそうの不気味さを募らせます。
 

「予約客のみ」尾之上浩司訳(By Appointment Only,1970)★★★☆☆
 ――パングボーン氏が床屋にやってきた。店主のワイリーが挨拶する。「元気がないようですね、パングボーンさん」「元気なんかあるものか」「どのへんが悪いんですか?」「脚だ。そして背中も。右腕も。胃も」

 マシスンの「得意なネタ」を生のまんま書きあげちゃったショート・ショート。そりゃその職に就くのが手っ取り早いです。
 

「指文字」伊藤典夫(Finger Prints,1962)★★★★☆
 ――わたしがバスに乗ったとき、右側の列の席に女二人がすわっていた。通路側の女は手話で話していた。女の血の気のない短い指はエネルギッシュに宙におどり、死のような沈黙の独白を織りあげてゆく。

 口がきけず耳が聞こえず外見が醜い女が、声を出すかわりに饒舌な手話を語り、自分にはできないことを目で疑似体験するのが、(せざるを得ないのが、)哀れです。
 

「世界を創った男」尾之上浩司訳(The Man Who Made the World,1954)★★★☆☆
 ――看護師「先生、世界を創ったのは自分だ、とおっしゃる患者さんが待合室にいらっしゃるのですが」、医師「かまわんよ、お通ししなさい」、スミス「スミスといいます」、医師「あなたが、この世界を創ったとか」、スミス「(懺悔の口調で)わたしがやりました」

 狂人のたわごとかと思ったらそのまんまだった!というある意味では驚愕の真相です。
 

「秘密」尾之上浩司訳(Interest,1965)★★★★☆
 ――キャスリンの背中を冷たいものがはしる。わたしはジェラルドと結婚するのよ、この屋敷や両親は関係ないわ。二人になると思い切って口にした。「だまっていたことがあるでしょう」「その……そうだな、あとで教えるよ……うちの……カネにまつわる話だ」

 本邦初訳。よくこんなこと思いつくなあ、と驚くというよりも感心してしまいました。古いお屋敷の異様な雰囲気に怯える新妻――オチにいたるまでの、ホラーの王道を行くサスペンスだけでも手慣れたものです。
 

「象徴」尾之上浩司訳(The Thing,1951)★★★☆☆
 ――「早く片づけてしまいましょう」「賛成。古い牛肉を食べただけで収容所に送られたくはありませんからね」キャスリンはグラスを置いた。「今夜、ビリーも連れて見に行かなきゃならないの」「傲慢な対数によって管理されているこの暮らしのなかで、たったひとつまともなものなんだから」

 本邦初訳。一種の管理社会でひそかに観覧されている、希望へのある「象徴」。どうもここまでのところ、「秘密」を除くと、オチのある作品のオチに意外性がないような気がします。オチというかカギ、真相、etc。
 

「おま★★」尾之上浩司訳(F----,1952)★★★☆☆
 ――交差点に巨大な金属球体が出現した。ドアがあき、男が一人飛び降りた。「わたしはウェイド教授。1954年の過去からやってきた」腹だたしそうな顔で、巡査が内部を覗きこんだ。恐怖のあえぎをもらしてあとずさった。「この卑猥なクズ野郎が!」

 食糧が猥褻物になった未来で演じられるドタバタ・コメディ。原題を活かした邦題が秀逸。
 

「心の山脈」尾之上浩司訳(Mountains of the Mind,1951)★★★☆☆
 ――空を背に白い雪をかぶっている山なみを見渡し、ここかと考えた。ついに見つけた。山を登りはじめると、行く手に男の姿が見えた。「おはようございます、ラシュラー博士」「ぴったりだったな、コパル博士」

 本邦初訳。どこからか語りかけられる声に惹かれるように「心の山脈」を目指すフレドリク博士が見たものは――。モチーフはたぶんアレ。ケイティとフレドリクの喧嘩のやり取りような何気ないシーンが上手くてむしろそっちの方が印象に残りました。
 

「最後の仕上げ」尾之上浩司訳(The Finishing Touches,1970)★★★☆☆
 ――チャペルがアマンダの肉体にのしかかりはじめた。よし、ここだ。ホリスターはチャペルの下半身へと銃弾を撃ちこんだ。完璧だ。俺が犯人だと立証できるものか。そもそも、動機がわからないだろう。アマンダとはごくわずかしか会ったことがないし、好意をもっているというしぐさは見せなかった。

 本邦初訳。せっかくの犯罪計画も女の勘には勝てませんでした。

  


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