『黒揚羽の夏』倉数茂(ポプラ文庫ピュアフル)★★★★☆

 ミステリマガジン、SFマガジンで紹介されていたダーク・ファンタジーです。

 母親と父親の離婚協議のあいだ、疎遠だった母の実家のある祖父の許に預けられた滴原千秋(中二)、美和(小五)、颯太(小二)。台風の日、美和は水たまりに映った赤い服の女を目撃する。そして翌日、拾った携帯電話からは「たすけて」という少女の声が……。

 さらに散策の途中、地元に住む紗江良と史生の姉妹のせいでチンピラ風の男に追いかけられることになった三人は、道に迷って巨大な黒い鳥の影を目撃する。

 祖父の家の押入れから出てきた古い日記を読んだ美和は、そこに書かれている出来事が現在とそっくりであることに気づく。数十年前と同じく、地元では少女の失踪が相次いでいたのだ――。

 紗江良や史生と仲良くなった三人は、少女失踪事件と紗江良たちの追う盗難事件の真相をさぐるが――。

 中心となる謎と事件もさることながら、登場人物の一人一人が心に“等身大の”闇を抱えているところが、いっそうの幻想的な雰囲気を盛り立てていました。虐待されている友人を救えなかった千秋、火遊びでボヤを出してしまった美和、美少女ゆえの苦労に抗う紗江良。そしてもちろん両親の離婚。わくわくするはずの夏休みの冒険だというのに、ひどく息苦しいのです。

 でも辛気くさくないのは、乗り越えようとして前向きにもがいているから?

 現実の犯罪に加えて、土地神らしきものの存在が重ねられていて、これが前面に押し出されてしまうと完全なファンタジーになってしまいますが、何となく根底に流れている匙加減がいいですね。本書には最後まで説明のつかない出来事も描かれているのですが、合理的でも超常的でもなく、ふとした拍子に忘れてしまったりそもそも気づきもしなかったりするような、ちょっと不思議な一コマといった不気味さを漂わせていて、子どものころに読んでいたら文字通りいつまでも心に引っかかって忘れないだろうなァという気がします。

 千秋と美和のどちらにも同じくらい筆が割かれていて、どちらが主人公ともいえません。心理描写にしても行動範囲にしても出会う人たちの数にしても、一人だけを主人公にするよりも広がりを持たせられるうえに、それぞれのパートを交互に徐々に明らかにすることでサスペンスにも一役買っていました。

 主人公たちの誰も自分の携帯を持っていないのが新鮮でした。

  


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