『リアル・スティール』リチャード・マシスン/小田麻紀訳(角川文庫)★★★★☆

 映画化企画の短篇集・角川文庫版。ハヤカワ版はマニア向けのB級未訳集。角川版は一般向けの代表作集といったところ。
 

リアル・スティール(Steel)

「因果応報」(To Fit the Crime)★★★☆☆

 芝居がかった言葉で家族に悪口を撒き散らす老詩人が死後に向かった先は――。

「結婚式」(The Wedding)★★★☆☆

 結婚式を控えた婚約者の男は、縁起をかついで非常識な行動ばかりを取りたがり――。

「征服者」(The Conqueror)★★★★☆
 ――町にやって来た若者は、町一番の早撃ちが誰なのかをたずねた――。

 初訳。世の中は教科書通りにならない、ということがわからなかった若者の話。一芸だけじゃ生きてけません。映画のなかで美化されたガンマンに対するアンチテーゼでもあるのかも。
 

「日記さんへ」(Dear Diary)★☆☆☆☆
 ――日記さんへ。もううんざり。ここから逃げ出すことができるなら、ハリーと結婚したっていいくらいだけど。未来にはきっと、仕事もしなくていいし……。

 さすがにこれは……。思いつき過ぎるのでは。
 

「下降」(Descent)★★★☆☆
 ――某国による爆弾から逃れるため、アメリカ国民はトンネルを通って数十年のあいだ地下に避難することになった。

 初訳。マシスン得意の終末ものの人間ドラマ。受け入れがたい現実をそれぞれのやり方で受け止める人々の姿が胸を打ちます。
 

「何でもする人形」(The Doll That Does Everything)

 ポケミス『新・幻想と怪奇』にも収録。
 

「旅人」(The Traveller)★★★☆☆
 ――ジェイラス教授は時間転移機に乗って、イエス磔刑の現場を訪れた。見たところでは旧約聖書の記述とは異なることも多いが……。

 そのものズバリのクリスマス・ストーリー。未来からの影響で奇蹟を演出したといったようなアイデア・ストーリー的な面は最小限に抑えて、人間の信仰心や尊厳に迫る作品でした。
 

「時代が終わるとき」(When Day Is Dun)★★★☆☆
 ――地球の最期に一人生き残った詩人は、その悲しみを詩にしようとする。

 初訳。おバカな芸術家というステレオタイプが、期待どおりにやらかしてくれます。
 

「ジョークの起源」(The Splendid Source)★★★☆☆
 ――お決まりのジョークを最初に言いだしたのが誰なのかをタルバートは探ろうとするが……。

 初訳。こんな話を真面目に書かれてしまうから面白い。
 

レミング(Lemmings)★★★★☆
 ――「また来たぞ」ふたりの警官は、浜辺へむかって歩いていく一群の人びとをながめた。

 最後の一文が喚起するイメージのおかげで、単なるアイデア・ストーリーを越えることに成功しています。
 

「境界」(The Edge)★★★★☆
 ――マーシャルは見知らぬ人物に声をかけられた。まったく見覚えがないのに、相手は自分のことをよく知っているようだ。多元宇宙という荒唐無稽な理論を思い出した。

 上記「レミング」とともに異色作家短篇集『13のショック』収録。
 

「サンタクロースをたずねて」(A Visit to Santa Claus)★★★★☆
 ――ケンは息子のリチャードを連れてサンタクロースの催し物に出かけた。あの男がうまくやってくれるはずだ。催し物から戻ってきたら、ヘレンがいないといって警察に連絡すればいい――。

 『ミステリーズ』で既読。
 

「ドクター・モートンの愚行」(Dr. Morton's Folly)★★★★☆
 ――夜遅くにドクター・モートンを訪ねて来た客は、歯が痛いので今すぐに治療してくれと言った。

 初訳。「歯が異常に長く」という時点で読者にはピンと来るのですが、それでいながら歯の治療だけで最後まで読ませてしまうのがすごい。
 

「時の窓」(The Window of Time)★★★☆☆
 ――わたしは家を出て高齢者用住宅の下見に行った。窓のそとには、わたしが若かったときの風景がひろがっていた。

 初訳。「2010年に発表された(中略)新作」だそうです。お得意の、というべきだろうなあ。ちょっと切なくて苦いタイムトラベルもの。

  


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