『放課後探偵団』相沢沙呼・梓崎優ほか(創元推理文庫)★★★★☆

 若手作家による書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー。パズルふうの前半から始まり、ミステリふうの後半に至ります。
 

「お届け先には不思議を添えて」似鳥鶏 ★★☆☆☆
 ――OBの福本さんつてで映像研究会のVHSテープを業者にDVDにしてもらうことになった。だがそのうちのいくつかが「テープが伸びている」という理由で返却されて来た。発送したときには何ともなかったはずなのだが……。

 著者の作品を読むのは「まもなく電車が出現します」などいくつか読んだことがあります。起きているのは日常の謎なのに、「犯人」のやっていることは非日常に複雑でトリッキーというアンバランスな作風が苦手です。
 

「ボールがない」鵜林伸也 ★★★☆☆
 ――どこを探してもボールが一個見つからない。見つかるまでは帰るなと監督に言われた野球部員たちはうんざりしていた。そんなときキャッチャーのコースケが言った。「もっと論理的にいこう」

 新人さん。悪く言えば推理クイズみたいな、よく言えば少年探偵団のような、日常のなかのパズル。本書のなかではもっともストレートな謎解きものかもしれません。
 

「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」相沢沙呼 ★★★★☆
 ――二月十四日。男子であれば、意識してしまう日、バレンタイン・デイ。ところが……学年集会から戻ると、教卓の上に、大小たくさんのチョコレートがちりばめられていた。チョコだけが、みんなの机やロッカーから盗まれて、先生の机の上に集められていた。

 この本が出た当時はまだ出版されていなかった『ロートケプシェン、こっちにおいで』からの先行短篇化。逆転の発想はこれぞミステリという感じです。謎そのものよりも恋模様や学園生活に筆が割かれているので、手間暇の大きな真相にも大げさだという印象は受けませんでした。
 

「横槍ワイン」市井豊 ★★★★☆
 ――映研の先輩と対立して一年生だけで同好会を発ちあげた津田くんたちから鑑賞会に誘われた。津田くんは鑑賞会の帰りに大葉さんを送ってゆき、告白するつもりらしい。ところが映画を鑑賞中に大葉さんが悲鳴をあげた。見ると、大葉さんはワインまみれになっていた。

 梓崎優ミステリーズ!新人賞を争った著者の「聴き屋」シリーズもの。鑑賞していた映画のなかに動機があるのなら、音なのか風景なのか人物なのか可能性が多すぎる――というリアルな問題提起をしておきながら、真相はどうとでもとれるようなところに仕込むあたりにセンスが感じられました。
 

「スプリング・ハズ・カム」梓崎優 ★★★★☆
 ――卒業式の日。「仰げば尊し」が流れるはずが、「燃えよ北高、バーンバーンバーン」が流れ始めた。放送委員の鳩村、支倉、志賀、石橋、そして熊野先生が放送室に駆けつけたが、そこには誰もいなかった。ほかに出口はないはずなのに――。そして十五年後、同窓会で開いたタイムカプセルから、「あの放送室ジャックの犯人は私だ」というメッセージが……。

 心理的な不可能犯罪を可能にする因子が「学園もの」であることと結びついており、しかもそれがミステリの約束事からははずれたある事実とも不可分となっていて、さすが新人賞受賞者らしく完成度は本書のなかでも随一でした。

  


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