『ミステリマガジン』2013年9月号No.691【魅惑のタカラヅカ/作家特集・ジャック・リッチー】
これまでもミステリマニア以外の読者を開拓する努力が窺えた『ミステリマガジン』ですが、今月号はちょっとやりすぎの感が。
作家特集 ジャック・リッチー
「わが父、ジャック・リッチー」スティーヴ・リッチー/小鷹信光訳
「オレンジ連続殺人事件」ジャック・リッチー/小鷹信光訳(The Orange Murders,Jack Ritchie,198)
――私はテーブルにあったナイフで女房を突き刺した。床に倒れながら、女房の手はオレンジをひとつわしづかみにしていた。私はナイフを洗い……。
模倣の仕方が雑なのが無性に可笑しい。良心(?)に目覚めたラストも皮肉が効いています。
「遅配郵便」(Delayed Mail,1978)
――社長と間違われて誘拐されたのは、雇い人の一人にすぎない私だった。口述されるがままに身代金を要求する手紙を書いて……。
『キングの身代金』かと思わせて、焦点はそこにはないスマートな結末でした。
「勝つか負けるか」高橋知子訳(Win Some, Lose Some,1981)
――金庫のなかで発見された死体。事故か他殺か自殺か。状況から推理すれば他殺なのは明らかだ。ターンバックルは自信を持って犯人を告発しようとするが……。
必ずしも迷探偵ではないんですよね、ターンバックルは……。
「全短篇チェックリスト」スティーヴ・リッチー/小鷹信光・共編
「死は痕跡を残す」ウィリアム・リンク/高橋知子訳
――稀覯本業者のおじを殺して遺産を手に入れようと、トロイは本棚を押しておじの上に倒したが、まだ動いているのを見て、手近にあった本をつかんでふりあげた……。
刑事コロンボシリーズの脚本家による、刑事コロンボもの。シナリオ集『ミステリの女王の冒険』は面白かったのですが、小説だとイマイチか。「意外なところに隠されていた手がかり」と「犯人を翻弄する悪女」のどっちつかずになってしまっていました。
「書評など」
ようやく発売されたローラン・ビネ『HHhH』はナチスもの。そして『桜庭一樹短編集』はタイトルまんまの短篇集。ミステリ漫画は異能もの『嘘解きレトリック』(辻村深月推薦)、サークルもの『みすけん!』(綾辻行人推薦)の二作。
「幻談の骨法」37「徹底して「小説それ自体」を読む方法」千野帽子
『S-Fマガジン』2013年9月号No.690【サブジャンル別SFガイド50選】
今月号の特集はサブジャンル別ガイド。普段SFマガジンを読んでいるような人間にはさして新味はありません。小田雅久仁、三島浩司らによるエッセイ「マイ・スタンダードSFII」。
「ナイト・トレイン」ラヴィ・ティドハー/小川隆訳
「SFのある文学誌(21) 内宇宙の「世界」探訪――貫名駿一『千万無量 星世界旅行』」長山靖生
「書評など」
◆映画『パシフィック・リム』はギレルモ・デル・トロ監督作品。P.234には監督インタビューも掲載。「モンスター」ではなく「怪獣」映画、であるらしい。大濱普美子『たけこのぞう』は国書刊行会からというのが気になっています。加納朋子『はるひのの、はる』は『ささら さや』シリーズ第三作(完結編)。ポール・ボウルズ『モロッコ幻想物語』はとにかく変な話のようです。
「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(2)ジゴマの残党と同類たち」横田順彌
「乱視読者の小説千一夜(31)夢よふたたび」若島正
「フェアリー・キャッチ(後篇)」中村弦