『S-Fマガジン』2013年11月号No.692【海外SF短篇セレクション】

「ホワイトフェード」キャサリン・M・ヴァレンテ/佐田千織訳(Fade to White,Catherynne M. Valente,2012)★★★★☆
 ――マーティンは大人になったら、ほかのなによりも「夫」になりたかった。シルヴィーの「お披露目」の日は、血や炎の色を通りこした夜明けではじまった。検査の結果によって、生殖能力の優れた者は選り分けられ、ふるい落とされた者たちはほかの任務に就く……。

 生殖能力に特化した管理社会と格差社会――封建時代を未来ガジェットで異化した遠い世界の物語のようでもあり、「生殖能力」を別のものにかえればそのまま現代の現実の管理社会と格差社会のようでもありますが、いずれにしても大人になって社会に出ようとしている若者たちの甘酸っぱい期待と苦さが張り詰めていました。
 

ジャガンナート――世界の主」カリン・ティドベック/市田泉訳(Jagannath,Karin Tidbech,2011)★★★★★
 ――偉大なるマザーの中で新しい子供が生まれ、〈育児嚢〉から吐き出された。女であるラクは働き手で、ゆくゆくはマザーの〈腹〉にある蠕動エンジンを動かすか、〈脚〉を動かす仕事に就くのだ。男であるジズはやがて〈卵巣〉に行き、それから案内役《パイロット》として〈頭〉で働くことになる。

 とある世界の遠い未来、ガスマスクを用いたり隔離ドームで過ごしたりするのではなく、宿主に寄生する寄生生物のようにして生きている人類。生き物なのか人造物なのかも定かではありませんが、使用されている単語からもわかるとおりの生々しさに満ちた「生活」が描かれています。タイトルは「ジャガーノート」のもじりかと思ったのですが、むしろオリジナルが「ジャガンナート」というヒンドゥーの神様なんですね。
 

「最終試験」メガン・アーケンバーグ/鈴木潤(Final Exam,Megan Arkenberg,2012)★★★★★
 ――1、選択問題。事態がとんでもないことになっているということを知ったのは、どの時点か? (a)蛇口をひねるとお湯の代わりに真っ赤な冷たい液体が出てきたとき。(b)職場の機械がつぎつぎ故障しはじめたとき。(c)バターナイフを取ってと頼んだのに、彼が聞こえないふりをしていたとき。

 意識の流れのバリエーションを思わせる、主流文学寄りの作品。どこで間違ってしまったのかを、選択式で自問自答する女の姿は、どこか病んで壊れてしまっているようでいて、答えはおろか原因さえもつかめない現実の姿を写しているようで、どきりとします。
 

「真空キッド」スティーヴン・バクスター/矢口悟訳(Vacuum Lad,Stephen Baxter,2010)★★★☆☆
 ――偶然の事故により思いも寄らぬ能力(=宇宙の過酷な環境下にさらされてもなんとか生き延びられる)がみずからに宿っていることを発見したぼくは――。(袖惹句より)

 「真空キッド」とは、主人公たちによって命名されたヒーロー名。
 

「SFのある文学誌(23) 空に浮かんだ未来――アルベール・ロビダの二十世紀」長山靖生

「乱視読者のSF千一夜(33)1961年ロンドンの旅」若島正
 

「書評など」
映画『ビザンチウムは女吸血鬼もの。

◆銀背クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』、ロシヤ幻想小説リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』メフィスト賞受賞のファンタジー大作『図書館の魔女』
 

「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(4) 〈日本少年〉の作家と少年冒険小説(1)」横田順彌
 

「第2回国際SFシンポジウム レポート」

パオロ・バチガルピ・インタビュウ」
 
 

「パリンプセスト(前篇)」チャールズ・ストロス/金子浩訳(Palinpsest,Charles Stross,2009)

 


防犯カメラ