『Mystery Seller』新潮社ミステリーセラー編集部編(新潮文庫)

進々堂世界一周 戻り橋と悲願花」島田荘司 ★★☆☆☆
 ――彼岸花を見て、御手洗さんがぼくに聞かせてくれた。戦争中に日本人に非道い目に遭わされた韓国人の話だった。彼岸花の球根には毒がある。ビョンホン少年は姉を乱暴したササゲを殺そうとしたが……。

 学生のころの御手洗が珈琲店の店員に世界で見聞きした話を語って聞かせるシリーズの一篇。先生が生徒に語り聞かせるように話す御手洗が気持ち悪い。島田氏のストーリーテリングの才は内容が日本人論と人情話になると鈍ると思います。地味ながらぶっ飛んだスケール感のトリック(?)がテーマと結びついていて感涙ものではありますが。
 

「四分間では短すぎる」有栖川有栖 ★★★★☆
 ――「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です」アリスの隣の公衆電話の男はそんな謎めいた言葉を残して足早に駅から立ち去った。推理小説研究会の面々は暇つぶしに推理を始めた。

 タイトルからわかるとおり、ケメルマン「九マイルは遠すぎる」へのオマージュ。松本清張『点と線』についての考察も含まれつつ、それが単なるペダントリーで終わらないところにこだわりを感じます。楽屋落ちめいた話ではありますがよくできています。
 

「夏に消えた少女」我孫子武丸 ★★★☆☆
 ――ひとけのない公園にかがみこむ少女を、じっと見つめる男がいた。「メジロだね。怪我してるのかな。病院に連れて行ったら助かるかもしれない」。そう言って少女を車に連れ込んだ……。

 小品ながら我孫子氏らしい、犯人当て小説のお手本のような作品。
 

「柘榴」米澤穂信 ★★★★☆
 ――小さいころから人は私の容姿を褒めてくれたし、私もそれを誇り、磨くことを怠らなかった。大学のゼミで知り合った佐原成実は夫としてはぶらぶらとしてばかりいる人間だったが、私には夕子と月子という娘二人がいればよかった……。

 愛しんでいるようにも歪んでいるようにも見える人それぞれの愛情もさることながら、これはやはり最後の一文の気持ち悪さが光っています。ここで「それほど」の一言を入れられるところが恐ろしいなあ。
 

「恐い映像」竹本健治
 

「確かなつながり」北川歩美
 

「杜の囚人」長江俊和
 

「失くした御守」麻耶雄嵩 ★★★★☆
 ――地元の有力者の令嬢で和風美人の恭子がとうとう駆け落ちしたらしい……やがて死体が発見され、心中事件かと思われたが、警察は殺人と判断した。俺は真紀とおそろいで買ったうさぎの御守を失くしてしまい、ずっと探していた。

 麻耶雄嵩の新シリーズ? 著者にしてはおとなしく見えて、ギャグみたいな真相の破壊力はとてつもない。H・M卿の車椅子の暴走やバナナの皮くらい笑いました。それとは別に足跡のない殺人の真相も明らかになりますが、けっこう面白いのに地味なのがもったいないくらい。

 


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