『妃は船を沈める』有栖川有栖川(光文社文庫)★★★☆☆

 中篇二篇をつないで長篇にしたという面白い構成の作品です――が、やはり独立した中篇二つという印象。しかも第二部は出来が悪い。「第一部 猿の左手」は、怪談「猿の手」をモチーフにした中篇。

 夜中に車が海に落ちた。事故か自殺かと思われたが、被害者から睡眠薬が検出され、他殺の可能性が強まった。被害者には多額の保険金がかけられていたが、妻にはアリバイがあり、借金の貸し手には車の運転ができなかった……。

 怪奇小説猿の手」をそういうふうに解釈しますか。著者の病膏肓ぶりが凄まじい好篇。「泳げない」という言葉に隠された二重の意味が光っていました。

 「第二部 残酷な揺り籠」
 ――地震発生。青年が知人宅に駆けつけると、知り合いの青年の射殺体が見つかった。現場に入るための鍵は三つしかなく、一つは被害者のポケット、一つは重いサイドボードの後ろ、一つは地震で地下室に閉じ込められた人物が持っていた……。

 犯人が火村の推理を「乱暴」「不自然」と評していますが、まさにそのとおり。せっかく第一部が火村シリーズにしては「当たり」だったのに。

 


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