『鷹』石川淳(講談社文芸文庫)★★★☆☆

「鷹」★★★★★
 ――専売公社を馘首になった国助は、Kという男に言われるがままに運河べりの倉庫を訪れた。紙袋を煙草屋に届ける仕事を言いつかった国助は、好奇心から紙袋のなかの煙草に火をつけた。何の変哲もないピースのはずが、得も言われぬ味を感じ……。

 国助の視点で運河から小窓にクローズアップしてゆく映画の冒頭のような巻頭。そして安部公房のような、都会と幻想。鼻をふさぎたくなるような政治臭ぷんぷんの世界さえも、異世界ファンタジーのように見せてしまう魔法。
 

「珊瑚」★★★☆☆
 ――社会の敵を倒すことに失敗した当麻たちのところに転がり込んできたかっぱらいの子どもは、城に入る合言葉を知っていると告げた。有力者の集まる城内のバクチ場に入り込むと……。

 こちらは政治臭がどぎつい作品で、思想や登場人物の中身は明らかに現代日本らしき時と場所なのに、描かれているのは無国籍な世界というアンバランスが、「鷹」とは違い成功していないように感じました。
 

「鳴神」★★★☆☆
 ――柿夫はそいつに専属運転手のように使われていた。運転席で居眠りを決め込んでも、ステッキでこつこつと叩かれると、自然と身体が動いてしまう。

 これもまた労働集会のような話。

 


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