『フランクを始末するには』アントニー・マン/玉木亨訳(創元推理文庫)

 『Milo and I』Antony Mann,2003年。

「マイロとおれ」Milo and I)★★★☆☆
 ――偏見にまどわされることなくあらゆる事実に目をくばるのが優秀な刑事だ。そのために赤ん坊が相棒になった。天真爛漫計画だ。

 動物好きな子どもが見たがった動物。現実にはいなくとも子どもの目には見えていたのでしょうか。それを踏まえて、意地が悪いのかセンチメンタルなのかわからないラストでした。
 

「緑」(Green)★★★★☆
 ――最近、うちの通りの勤労監視団はやけにはりきっている。通りの芝生を、決まった青さで、決まった長さに刈り込む。

 行きすぎた環境保護に対する諷刺SFみたいな設定から、軽やかに飛翔するラストシーン。これもまた如何とも言い難い読後感を残します。
 

エディプス・コンプレックスの変種」(The Oedipus Variation)★★★★☆
 ――チェスの実力をあげたいと思うのなら、自分の父親を殺すしかありません。一流プレーヤーには、王《キング》を殺したいという根本的な衝動があります。

 洒落から生まれた皮肉な話かと思いきや、ひとひねりが効いていました。それにしても、健全な親子を西瓜に喩えて、それを断つべし――と西瓜を割るシーンなど、皮肉な話も充分に面白すぎます。原題はチェスの「ヴァリエーション」の意。
 

「豚」(Pig)★★★★☆
 ――「あたしたち、吐き気をもよおすくらいの金持ちなの」とクラフト夫妻は言った。「素敵な豚ね」マーニーはそれしか言えなかった。「カールよ。そしてあれはギャビン、うちの愛玩用の男の子」と言ってクラフト夫妻は笑った。

 プラクティカル・ジョークに愛想笑い。それが「約束事」であり、そして約束事を破るところに小説の面白さの一つがある……のですが、それにしたって科学的に考えると無茶苦茶で、結局は悪趣味なジョークだったのか、そういうところを超えた怪談なのか。
 

「買いもの」(Shopping)★★★☆☆
 ――6月5日。牛乳、新聞、キャットフード。6月12日。牛乳、新聞、キャットフード、石鹸、かみそり。6月15日。牛乳、新聞、キャットフード、口臭消臭剤。

 買いものリストだけで構成された作品。おおむね予想通りの展開ですが、7月10日だけは予想外でした。
 

エスター・ゴードン・フラムリンガム」(Esther Gordon Framlingham)★★★☆☆
 ――ミステリ小説にいまだかつて登場したことのない探偵のアイデアを思いつけないわたしのところに、ルーファス神父シリーズの代作者にならないかという提案が……。

 オリジナリティなんてものがばかばかしくなってきます。
 

「万事順調(いまのところは)」(Things are All Right, Now)★★★★☆
 ――やつを見かけたのは、クリスマス後の日曜日の午後だった。観光客がのんびりといきかっているなか、サイクスの姿が目に飛びこんできた。

 本書のなかでは珍しく、クセのないプロバビリティの犯罪小説。ただしタイトルにひとクセあります。
 

「フランクを始末するには」(Taking Care of Frank)★★★☆☆
 ――フランク・ヒューイットはスターだった。唯一の問題点は、まだ生きているということだった。トリビュート企画も伝記本も、本人が死んだ方がよく売れるというのに。

 楽屋裏ものの小説版「エスター〜」に続いては、テレビ業界もの。
 

「契約」(The Deal)★★★☆☆
 ――わたしが例の契約についてよく考えたかどうかを知りたがってロンが訪ねてきた。「金はどうだっていい。ただ、やりたくないんだ」とわたしはいった。

 表題作・本編・「凶弾に〜」を読むと、著者はマスコミが嫌いなんだなあ、とつくづく思いました。どうやら犯罪被害者に告白本か何かの契約を結ばせたエージェントがいるらしく、それを前向きに捉える隣人と否定的な語り手のあいだに、深い溝が出来てしまったようです。
 

「ビリーとカッターとキャデラック」(Billy, Cutter and the Cadillac)★★★★☆
 ――トム・カッターは太っていた。ビリーのキャデラックとカッターの懐中時計で賭けをすることになった。一週間で三キロやせられればカッターの勝ちだ。

 本書のなかではもっとも直球のショートショート。アイデア自体は目新しいものではありませんが、キャデラックがオートマかどうかを確認するような、妙に細かい伏線がおかしかった。
 

「プレストンの戦法」(Preston's Move)★★★☆☆
 ――「チェスを解き明かしたんだ。ぼくは世界チャンピオンになるよ。最後の世界チャンピオンになるだろう」とプレストンは言った。

 どこかで読んだことがあるような、必勝法の話。
 

「凶弾に倒れて」(Gunned Down)★★★★☆
 ――親父はヘンデンという男の放った凶弾に倒れた。ヘンデンは心神喪失を主張した。出所後は、同種の犯罪が起きるたびに、その道の専門家としてテレビに出ていた。

 マスコミの虚像を描いたものとしては、タッチは違えど「フランクを〜」とも一脈通じるものがあります。しかしながら犯人のブルーの瞳について、「カメラは嘘をついていなかった。」という一文があるのが何やら象徴的です。

 


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