『S-Fマガジン』2014年5月号No.698【非英語圏SF特集】

「SF COMIC SHORT−SHORT」(5)小原慎司
 

「パッチワーク」ロラン・ジュヌフォール/稲松三千野訳(Patchwork,Laurent Genefort,2012)★★★★☆
 ――惑星オマルのモルグで働くホドキン族の医師シズニー・オクテダ・シェンドのもとに、ある日いつものように遺体が運ばれてくる。旧知の仲であるヒト族のムスラーフ・ポガビ刑事とともに検視を進めていたところ、その遺体に妙な切り傷を発見する。致命傷というわけではなかったため、特に問題にしてはいなかったのだが……。(紹介文より)

 フランスSF。新銀背で刊行予定の『オマル』シリーズの短篇。なかなか硬派のSFミステリですが、『オマル』シリーズそのものは、『ハイペリオン』とか『デューン』とか言われると、どうやらわたしの好みではなさそうです。
 

「鼠年」スタンリー・チェン(チェン・チュウファン)/(Year of the Rat,Chen Quifan,2009)★★★★☆
 ――中国文学を専攻する学生の「僕」は、就職することを嫌っていた。食事と宿舎の提供、そして除隊後の就職の保証につられ、大學の友人の小豆《シャオドウ》とともに鼠駆除隊に入隊する。脱走したネオラット――遺伝子改造された巨大鼠を殺すのがその任務だ。だが過酷な環境に、隊員は日増しに気鬱に陥り、残虐な本性をあらわにする者も出始める。ついには小豆が命を落としてしまい……。(紹介文より)

 中国SF。英語からの重訳。SFだと思って読むと何の説明もない鼠の急激な進化は荒唐無稽に過ぎますが、安部公房あたりの幻想小説だと思えば問題ない。大学は出たけれど(出てないけど)――のあとに待ち受けているのが戦争ではなく鼠駆除というのが、不条理感を上げているうえに妙に中国的リアルであったり。
 

「異星の言葉による省察」ヴァンダナ・シン/(Ruminations in an Alien Tongue,Vandana Singh,2012)★★★☆☆
 ――老女ビルハはいま、戸口に立ちむかしのことを思い出していた――巨大なエイリアンの要塞を訪れたときのことだ。エイリアンの専門家であった彼女は、峡谷にあるエイリアンの遺跡に突っこんでぱっくりと飲み込まれた飛行艇パイロットを救うため、たったひとりでそのなかに入った。そこで彼女が見つけたある機械は世界のことわりを崩すものであり、また彼女の人生にも少なからず変化をもたらした。彼女の前に突然現れ、愛に近い思いを抱くようになった男、ルードラック。だが彼とは親密になりすぎたくないある理由があった……。(紹介文より)

 インドSF。叙情的でしんみりとした幻想の果てに待ち受けるベタ。ある意味で破壊力が高い。
 

「エンタメSF・ファンタジイの構造」(2)飯田一史

『エピローグ』(1)円城塔

「サイバーカルチャートレンド」(52)大野典宏
 スマート家電なんかのOSの話。

「乱視読者の小説千一夜」37「機内で煙草を吸わないで」若島正 

「廃り」小田雅久仁
 ――全身がモノクロームの人々「廃り」が社会の片隅でひっそりと生きる、現代とは少しだけ異なる世界。主人公は、母・結香が母の弟・降志――主人公にとっての叔父――と、自分の身に起きたことを綴った私小説ふうの物語を読みはじめます。家族が語りたがらない叔父とは何者なのか、そして「廃り」はなぜ生まれ、どこへ行くのか……書くことで世界を認識していった結香、そして彼女の息子に連なる物語(以下略)。(解説より)

 


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