『ペインティッド・バード』イェジー・コシンスキ/西成彦訳(松露社 東欧の想像力7)★★★★★

 『The Painted Bird』Jerzy Kosinski,1965・1976年。

 ポーランドからの亡命作家による英語作品。初訳ではなく新訳です。旧題『異端の鳥』。

 第二次世界大戦の波が押し寄せる東欧の大都市から、遠い村に疎開させられた一人の少年。オリーブ色の肌と黒い髪と瞳を持つ少年は、呪われた目を持つジプシーだと疎まれ、村から村を転々とした。民間医療師の老婆オルガのところでは、火を絶やさないことを学んだ。粉屋の「やきもち焼き」のところでは、一度見たものはみんな覚えておこうと決めた。そうしておけば、だれかに目玉をくり抜かれても、見たものすべてを記憶しておける。小鳥売りのレッフは「低脳」ルドミラに夢中だった。大工はぼくを袋に入れて、溺れさせようとした……。

 村から村へとさまよい、一章がほぼ一村一エピソードになっています。戦争に関わりのあるなしにかかわらず残酷な現実の数々は、下手なホラーよりもよほどホラーでした。地雷や火薬で日常的に遊ぶ子どもたち、砲撃拠点に閉じ込められてもがく鼠たち……。あるときは残酷さの意味もわからず好奇心から、あるときは魅入られたように目を離すことができずに、子どもの視点を通して詳細に描かれる残酷描写からは、ときに目を背けたくなります。

 タイトルになっている「ペインティッド・バード」とは、直接的にはレッフが色を塗った鳥を指します。ペンキを塗って放った鳥は、ほかの鳥たちからは仲間とは認められず、つつき殺されてしまう……仲間でありながら同時に異質なものの譬喩――というよりはモロに指されています。

 どの章もそうなのですが、特に第18章の転轍器と「無言君」の話はこれだけで短篇小説になるくらいでした。

 自伝的小説だと勝手に思い込んだ人たちから毀誉褒貶あったらしく、そのあたりの事情が著者によるあとがきに書かれてありました。

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