第一幕 絡操
・亜智一郎
「大奥の七不思議」
――美術品を盗んでは偽物の場合は返しに来る盗賊・隼小僧が江戸城城内に侵入した。怪しい目撃情報の正体は狸だったようだが。狸が人に化けても泥棒はすまいが……。
七不思議と盗賊の謎をからめてあるのはさすがだけれど、亜愛一郎シリーズにあったような逆説がないのが悲しい。
「文銭の大蛇」
――尊王攘夷の嵐が吹き荒れる物騒な世の中になり、緋熊は妻のために写真を撮ることにする。折りしも写真に撮るはずだった、銭で作った大蛇の細工物が盗まれるという事件が起き……。
ミステリとしても凡作。写真がらみなのが亜シリーズのファンにはうれしい。同心の羽田三右衛門のとぼけた感じが面白いが、寺社役付きだと登場が限定されてしまうか。
「妖刀時代」
「吉備津の釜」
「逆鉾の金兵衛」
「喧嘩飛脚」
「敷島の道」
以上、ほとんどが非ミステリでした。
・幕間
「兄貴の腕」
――兄貴は掏摸の名人だった。ただ、一度だけ、掏る相手を間違えたことがある。
落とし噺。
・紋
「五節句」ほか
・幕間
「母神像」
――交通事故で死んだと思っていた美和子と、岳史は写真展で再会した。
エロチック・ホラー。
「荼吉尼天」
――上野舞の背中には、見事な荼吉尼天の彫物があった。
偽物の彫物に、恋をした。
第二幕 手妻
・ヨギ ガンジー
「カルダモンの匂い」
――料理評論家にボロクソに書かれたレストラン。仕返しに料理に強烈なスパイスを混ぜようとしたが、ヨギ ガンジーたちを評論家と間違えて……。
初出が1987年なだけあって、亜智一郎シリーズとは違って、ちゃんとミステリでした。評論家がボロクソに書いた理由はそれとして、ヨギ・ガンジーが使った匂いのトリックが単純なだけに効果的でした。
「未確認歩行原人」
――ヨギ ガンジーたちがスカウトされかかったサーカス団で、巨人の足跡が見つかった。
見慣れたはずのものをちょっといじるだけで未知のものに変えてしまう「巨人の足跡」といい(象の足跡を飛び飛びに土で隠した)、犯人が足跡のいたずらをした理由といい(二人が付き合いだした記念)、やや弱いものの、本書収録作のなかではもっとも泡坂印にあふれた一篇でした。
「ヨギ ガンジー、最後の妖術」
未完。
・幕間
「月の絵」
「聖なる河」
「絶滅」
「流行」
ショート・ショート四編。「月の絵」は、好きだった人の孫の絵に、好きだった人の絵の面影を見る話。アイデアはいいが、ちょっと枚数足らず? 「絶滅」はSF。建物も生物も無事なのにその星の住人だけが姿を消したわけは――? 食人でした。「流行」も(オチが)SF。服装の話かと思いきや、(尾や体毛のように歯が退化した人類の)入れ歯の話でした。
・奇術
「魔法文字」「ジャンピング ダイヤ」「しくじりマジシャン」「真似マジシャン」
・戯曲
「降霊会の夜」
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