『ミステリマガジン』2014年9月号No.703【カーと密室】

「『三つの棺』は時を超える」北村薫

「『三つの棺』新訳に寄せて」加賀山卓郎

「灰ほどの手がかり」ジョン・ディクスン・カー/加賀山卓郎訳(Ashes of Clues,John Dickson Carr,1923)★★★☆☆
 ――ソーンダーズはどんな役にもなりきれる俳優だった。今夜、メイナードを殺し、自分は失踪したと見せかけてメイナードになりきるつもりだった。マティスン部長刑事は「灰ほどの手がかり」をもとに真相を探る。

 カー17歳ごろの作品。マティスンは、手がかりをもとに、物事が起こった前後関係を推理します。鬼面人を驚かす解決編。
 

「世界の密室、世界のカー」小山正

「カーは不可能犯罪ものの巨匠だ」二階堂黎人

「密室法廷――ヘンリー・メリヴェール卿対森江春策」芦辺拓

「フェル博士 神津恭介 架空会見記」高木彬光

「ジョン・ディクスン・カー ラジオドラマの秘密を知り尽くしていた男」平野義久

「狼の夜」ポール・アルテ/平岡敦訳(La nuit du loup,Paul Halter,2000)
 

「モンゴル鉄道の死」メアリー・リード&エリック・マイヤー/三角和代訳(Death on the Trans-Mongolian Railway,Mary Reed and Eric Mayer,2000)★★★☆☆
 ――急増しているスリや置き引き対策のため国際列車に乗り込んだモンゴル警察のドルジ警部の目の前で、紙幣の詰まった荷物が積み込まれた。果たして警備員が毒殺され、貨物車から紙幣が消えていた。

 密室特集の一篇。衆人環視と鍵のかかった車内での死と現金消失。現代の日本が舞台では(おそらくは)起こりえない事件ではあります。モンゴルならこうなのかと言われるとわかりませんが。
 

「オペラ桟敷席の謎」ジャック・フットレル/宮澤洋司訳(Problem of the Opera Box,Jacques Futrelle,1908)★★★☆☆
 ――オリバー夫妻の娘エレノアが桟敷席で刺殺された。直前に脅していたという証言、機会、見つかった凶器から、婚約者のシルヴェスター・ナイトが容疑をかけられた。

 密室特集の一篇。これはオペラの桟敷席だからこそ成立し得た事件です……が、文章だけで読むから不可能犯罪に見えますが、実際に現場にいて目にしていれば不可能犯罪でも何でもないような気が……。
 

「ジョン、三恐怖館へ行く」北原尚彦

「オリジナル版「ボヘミア国王の醜聞」」テレンス・ファハティ/日暮雅通(A Scandal in Bohemia,Terence Faherty,2013)★★★★☆
 ――久しぶりにホームズを訪れると、独身男としての自由、つまりビールを満喫していた。[ビールでは低級すぎる? コカインがいいか?] ドアのベルを鳴らすと、年に一度の馬鹿騒ぎをしに出かけている家主のハドスン夫人に代わって、妹のターナー夫人に歓待された。[細かく書きすぎ。] 「読んでみたまえ」ホームズはテーブルの上を指さした。『今夜八時に訪問者あり――ボヘミア王』「そう、ボヘミアンたちのリーダーさ」

「オリジナル版「赤毛連盟」」テレンス・ファハティ/日暮雅通(The Red-Headed League,Terence Faherty,2014)★★★★☆
 ――ある秋の土曜日、ホームズを訪れてみると、燃えるような赤毛の紳士と話し込んでいた。「この方は中国を訪れたこと、肉体労働をしていたこと、フリーメイスン会員だということくらいしかわからないな」「なぜそれを?」「時計の鎖に中国のコインを付けていますからね。それに……」「では私は時計を家に置いてきていたら、まったくわからなかったのですかな」「説明なんかするんじゃなかったな」

 ホームズ・パスティーシュ小特集。冒頭こそ原典をなぞって(改訂が小さく済んで)いますが、物語が進むにつれて逸脱は大きくなり、最終的にはまったく別の事件といっていいほどです。「赤毛連盟」原典のツッコミどころは、ワトスンが小説家として話を盛ってより面白くしたことになっています。
 

「ミステリ・ヴォイスUK(81)アイルランドの闇」松下祥子
 

「書評など」
『忘却の声』アリフ・ラブラントの語り手は、なんと認知症患者。「信頼できない語り手」ここに極まれりです。『駄作』ジェシー・ケラーマンは、売れない作家による盗作という、あまり食指を動かされない内幕ものなのですが、「そんなことよりもはるかに奇異な問題にアーサーは直面する。/なんだこりゃ?/まじめに書いているのか?/あなたを呆然とされることは間違いない。」という紹介文に惹かれます。

『かわいい闇』は、河出書房新社の海外漫画シリーズ。『床下の小人たち』+『蠅の王』だそうです。
 

「中国貴族の真珠」オースティン・フリーマン/宮澤洋司訳(The Mandarin's Pearl,Austin Freeman,1909)★★☆☆☆
 ――金を支払って購入すれば呪われないが、贈られると死をもたらされるといういわくのある真珠。ソーンダイクの知人も、鏡のなかに中国人の姿を見て、恐怖のあまり自殺してしまった。

 怪奇と事件のバランスが黄金時代らしいほかは、特に見どころのない一篇でした。
 

 


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