『ディミター』ウィリアム・ピーター・ブラッティ/白石朗訳(創元推理文庫)

 『Dimiter』William Peter Blatty,2010年。

 『エクソシスト』のような超絶傑作を期待してしまうのはいたしかたのないところですが、期待値にはさすがに及ばない普通のスパイ小説でした。

 第一部で復讐殺人の連鎖の果てにたまたま逮捕された伝説のスパイ・ディミター。拷問者や警備員を殺して逃げ出し、行方不明に。

 第二部で起こる怪死事件。死んだのはどうやら伝説のスパイ・ディミターらしい。メラル警部補の知り合いの知り合いであるウィルスンが、自殺幇助したと打ち明ける。ウィルスンは不思議な魅力のある人物だった。CIAの資料から、ディミターはかつて作戦中に妻と同僚を失っていたことがわかった。――しかし実は! 妻と同僚は生きていた。不倫を隠し、名を変えて暮らしていたのだ。医師殺しの犯人である司祭ムーニーこそ、ディミターの同僚ライリーだった。そしてウィルスンこそがディミターだったのだ。ディミターだと思われた死体は、第一部でディミターを捕まえたヴロラ大佐だったのだ。拷問者である息子をディミターに殺された大佐は、地元の慣習によって復讐を余儀なくされていた。だが交通事故を起こして偶然ディミターに助けられ、その不思議な魅力に魅入られて、ディミターのために死期が近い自分がディミターのふりをして死のうとしたのだった。

 P.144、ヨハネ福音書。罪を犯したことのないものが石を投げなさい、の場面。キリストが地面に指で何か書いた、と書かれてあるが、何と書いたのかは明らかにされない。小説ならあとで説明があるはずだ。福音書の著者は実際に知らなかったのだ。でっちあげもできない。すなわち福音書に書いてあることは事実なのだ、という理屈が面白かった。

 P.189に出てくるドゴン族の神話(望遠鏡もない時代にシリウスについて詳しく知っていた)も面白いが、ウィキペディアによると、その神話が古来伝えられてきたものなのか、文明と接触後に変質・追加されたものなのかわからないらしい。

 1973年、宗教弾圧と鎖国政策下の無神国家アルバニアで、正体不明の人物が勾留された。男は苛烈な拷問に屈することなく、驚くべき能力で官憲を出し抜き行方を晦ました。翌年、聖地エルサレムの医師メイヨーと警官メラルの周辺で、不審な事件や〈奇跡〉が続けて起きる。謎が謎を呼び事態が錯綜する中で浮かび上がる異形の真相とは。『エクソシスト』の鬼才による入魂の傑作ミステリ!(カバー裏あらすじより)

 


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