松尾由美によるジュヴナイル作品。
改題前の『フリッツと満月の夜』というタイトルの方が好きだったのですが、フリッツの名前がなかなか出てこないので仕方がない。単行本版に加えて書き下ろし短篇つき。
メインとなるのは二年前に地元の名家のおばあさんが遺した大金の行方をさがす「宝探し」なのですが、わかっているのは(1)家から出られなかったおばあさんの金が消えていたこと、(2)おばあさん自身の口から金は処理したと告げられていること、だけなので、どのような可能性があるのか――というところから一つ一つ考えていく、という意味では、まことに推理小説らしい作品だと言えます。
表向きの探偵役は、亜愛一郎シリーズを「チェスタトンみたいなところがありますよね」と言い、「一見ありそうにないことでも、ほかに考えられる可能性がなければ、それが真実なんだ」というホームズの台詞を引用するミツル。序盤で「ありそうにない」と排除してしまった可能性が終盤で再び浮上してくるとともに、伏線となる事実があからさまに書かれていたことに気づいて驚きに打たれました。
表向きの――と書きましたが、真の探偵役はフリッツ。『安楽椅子探偵アーチー』の著者らしい探偵役と言えましょう。
家の門に刻まれたダビデの星をめぐる真相など単純なだけに効果的でした。
小説家の父親とともに、夏休みを港町で過ごすことになったカズヤ。ひょんなことから、ミステリーマニアの同級生・ミツルと知り合い、町一番の資産家で偏屈な老婦人の遺産を巡る謎を追う羽目に。月の光と金色のピアスをした猫に導かれ、カズヤが知ることになった「秘密」とは? 個性豊かな登場人物(と猫)が織りなす、ユーモラスで爽やかなひと夏のミステリー。(カバー裏表紙あらすじより)
「小早川ミツルと消しゴムの謎」
――夏の謎解きのことを知ったケンイチがミツルのもとを相談に訪れた。美術部の姉が消しゴムを毎日少しずつ大量に購入しているという。ライバルの絵を消すのが目的なのでは――ケンイチはミツルに真相を突き止めてほしいと頼む。
カズヤの登場しない後日譚。さすがにこの推理(探偵役がヒントを与えたからには真相なのでしょう)は斜め上を行きすぎていますが、消しゴムの使用法についてはいかにも小中学生らしい発想で作品に似合っていると思います。
ケンイチも仲間に加わった少年探偵団ものも、いつか読んでみたいものです。