『写楽 閉じた国の幻』(上・下)島田荘司(新潮文庫)★★★☆☆

 皮肉な見方をすれば、なるほど島田荘司だからこそ思いつけた真相だなあ、と。コインパーキングにまで日本人論を持ち出すところはさすがに失笑しましたが。

 歌麿の記述を傍証にして写楽の正体を比定してゆく手つきは、推理作家ならではの跳躍力のある手並み。島荘はこういう発想力は他の追随を許しません。

 それにしてもやはり島田荘司は物語パートが上手い。現代の謎解きパートを読んでいる読者は、写楽とは何者なのか?が気になって追っているのに、物語パートでは写楽よりむしろ蔦屋重三郎や歌舞伎の魅力に引き込まれてしまうのだから。

 あとがきによると、小説が長くなりすぎて、登場人物の背後ストーリーが書けなくなってしまった由。おそらく日本人論がねちねちと続くだけだったろうから、結果的には長くなりすぎて書けなくなったことは、本書にとって幸いだったと思います。

 ただし著者自身も書いているように、そもそものきっかけとなった肉筆画のことなどの続きは気になるところ。

 とってつけたような美人教授が出て来たのは、連載媒体『週刊新潮』のおっさん読者向けサービスなんでしょうね。

 一つの作品としてはあまりにもバランスが悪すぎました。

 世界三大肖像画家、写楽。彼は江戸時代を生きた。たった10ヵ月だけ。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎──。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学講師が突き止めた写楽の正体とは……。構想20年、美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説。(カバーあらすじより)

 浮世絵には、下絵師・清書役・彫り師・刷り師という行程が入っているという当たり前の事実を、推論の過程に取り入れたのが、意外な盲点でした。

 だけど写楽の正体が能役者・斎藤十郎兵衛であっても、本書の謎の大半は説明できるんですよね。。。能役者だったので歌舞伎に対する敬意がなく諷刺を出せた。武士である能役者だったので自由に歌舞伎を見ることができず周囲も正体を洩らすことができなかった。無名の作者なのに雲母摺りの豪華版で一気に出したのは、蔦屋重三郎が作者の才能に惚れ込んだから。。。

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