『空耳の森』七河迦南(東京創元社ミステリ・フロンティア)★★★☆☆

 個々の作品は独立していますが、最終話であれやこれがもろもろ一つに結びつく、短篇集。前作を未読なのでよくわかりませんが、本書も同じシリーズである模様。……というか前作までの小ネタも散りばめてあるらしいです。
 

「冷たいホットライン」は、バードウォッチングに出かけた恋人たちが吹雪で遭難してしまう物語。 怪我をして山小屋で震える彼女のもとに、彼氏はトランシーバーで連絡を取りながら向かいますが……。事件が解決して初めて事件が起こっていたことに気づかされる、技巧的な作品でした。身勝手というよりも、あまりにも弱く脆い犯人に愕然とします。
 

「アイランド」
 ――孤島でふたり暮らす姉弟。お姉ちゃんに教わって、くだものを食べ、やじゅうを避け、一年ちかくが経ちました……。

 幼い子どもの主観による視点からもたらされたのは、ぶっとんだ真相でした。島田荘司チェスタトンをごった煮したような奇想と錯誤が、しかし成功しているとは言い難いのも事実です。
 

「さよならシンデレラ」
 ――不良少女のリコとカイエ。知り合いにからんでいた他校の不良が重傷で発見され、封筒からお金がなくなっていた。リコの無実を信じる幼なじみのマサトは……。

 推理小説マニアの少年が友人の無実の罪を晴らそうとする、という点で、もっともミステリミステリした作品でした。とはいえ、読者の錯誤を狙ったこの叙述は、むりやり感がありすぎました。
 

「空耳の森」
 ――ヘッドフォンで音楽を聴いていた少女の耳に、「とわこ、いつかはいくね」という声が聞こえてきた。学園の怪談にある「永遠子」だろうか……。

 開き直ったようなタイトルに相応しい、驚愕の空耳。これまでの話が少しずつ絡んでいるのを理解するにつれ、本書自体がかなり複雑かつ巧みに構成された作品だと気づくのですが、いかんせん繊細な雰囲気とは裏腹のバカミスの宝庫であるため、評価しづらいようなところがあります。

 その他「It's only love」「悲しみの子」「桜前線」「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)」「発音されない文字」の全9編。

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