『桜庭一樹選 スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎007』日本推理作家協会編(講談社文庫)★★★☆☆

 桜庭一樹選のアンソロジーかと思い何も考えずに購入したのですが、よくよく序文を読むと、選定の対象は講談社で出している年刊傑作選三十年分のみ。しかも『謎001』から数えて19*0年、*1年、*2年……と順番に来て、7番目の本書は76・86・96年発行の三冊のみから選んだものでした。正直言ってあの年刊傑作選って面白くないんですよね。。。そこから選んだのではあまり期待できないかな、という思いで読み始めました。

 

「洋服箪笥の奥の暗闇」小泉喜美子 ★★★☆☆
 ――わたしは部屋をさがしていた。必要なのはイラストレーターが仕事をするのに最低限の空間。けれどその部屋には堂々たる造りつけの洋服箪笥までついていた。仕事の調子はよかったが、いわくのあるらしいその部屋からは、すすり泣きや笑い声や呟きが聞こえてきた。

 小泉喜美子は大好きな作家だし、レトロなお洒落が古くさくはなくさまになっている、と感じているのですが、この作品はやはり傑作選に選ばれるには違和感があります。。。怪異よりも恐ろしい女の妄念が描かれていますが、これがまた何というか、ちょっと曰く言い難い妄念で、性とも愛とも怨とも怒とも違う、不条理ホラーのような行為でした。実際「箪笥」つながりで半村良「箪笥」を連想してしまいました。ホラーかというとまたそうでもないのですが。【※ネタバレ 娘を縛りつけておきたい母親が、娘の留守中に部屋に忍び込み、箪笥に隠れて娘と彼氏の性行為の最中に姿を現し、なじるでもなく黙って見下ろした。しかしなぜか箪笥の奥には母親の母の写真が……。罪滅ぼしのつもりだったのだろうか――。

 

グリーン車の子供」戸板康二

 これは各種アンソロジーに採られすぎなので今回はパスしました。

 

「鳥を見た人」赤江瀑 ★★★★★
 ――野鳥の会宛に、S市の愛鳥グループの一員から封書が送られてきた。一枚の鳥の絵と、目撃した際の詳細な説明が記されていたが、会員の誰もその鳥を見たことはなかった。

 存在しない鳥の目撃情報をめぐる謎《ミステリ》は、言葉で綴られた小説という形に相応しいものでした。写真ではなく絵に描かれたその鳥は、言葉を正確に絵に綴ったものでした。もし、その言葉を支える足場がなかったとしたら。そのことに耐えられなかったとしたら。そしてそのことが明らかにする現実が許せなかったとしたら。言葉を真実にするために少年が取らざるを得なかった観念的な行動に震撼します。

 

「宅配便の女」夏樹静子 ★★☆☆☆
 ――産婦人科医の高瀬のもとに送られてきた宅配便からは、女の死体が出てきた。身許は差出人である貝島の妻・結花子であった。貝島が結婚したのは結花子の資産目当てであり、高瀬も結花子と関係があることが判明したが……。

 むう。困ったことに、真相を読んでもギャグにしか感じられませんでした。。。男たちの屑っぷりがとことん描かれているからこその、この真相ではあるのですが、何か、何だ……。【※ネタバレ 夫からも不倫相手からも裏切られていることがわかった結花子は、何と自殺したのだ。オブラートに包んだ毒を飲み(カプセルだと胃から検出されるので)、木箱に入り、隙間から途中まで打ちつけたあとで金づちを放り投げ……宅配便業者はいつものように庭に置いてある荷物を持っていき、気を利かせて打ちつけ途中の釘を最後まで打った。夫の名前で不倫相手に送ったのは復讐のため(?)。

 

「日本早春図」陳舜臣 ★★★☆☆
 ――桜井家の駄目息子が家から持ち出した掛軸。すぐに収蔵庫の番人・河村老人が訪ねてきて、唐寅《とういん》の「日本早春図」だけは何としても取り返したいと言いつのったが、すでに売られたあとであった。

 面白いけれどミステリではありませんでした。不良である弟の好きな人が社長子息の息子の好きな人と同じだと誤解し、弟が持ち込んだ絵が贋作だと決めつけ――あらゆる意味で真面目な河村老人の思い込みがもたらしたいきさつは、「日本早春図」の来歴にもう一つのエピソードを加えることになりました。絵そのものの魅力を大事にするという理想の蒐集家といい、気持のいい人たちが揃っています。

 

「伊集院大介の失敗」栗本薫 ★★★☆☆
 ――伊集院大介は別荘番のバイトをひきうけて軽井沢にいた。誰もいないはずのとなりの別荘に明かりが見えたので、警察に通報したところ、冷蔵庫から死体が……。死体は別荘の持ち主の悪徳弁護士のものであり、妻は行方不明になっていた。

 伊集院大介の失敗とは何だったのか、もさることながら、新しい密室が披露されていました。秘密の通路や隠し部屋に近いものなのですが、明かされたときにガッカリ感を感じないのは、可能性の枝を順番に潰す手続きをきちんと踏んだうえで、真相に至っているからでしょう。【※ネタバレ 失敗とは事前に犯人に接触して真相を警察に言うと伝えたこと。犯人二人はそれを聞いて心中してしまった。推理披露が快かった反面・推理に自信がなかったので事前に確かめたかったのだ。そして真相:犯人は妻。密室状態だったのは、事件の前から別荘に被害者と二人で住んでいたから。そして殺したあとでも別荘に留まっていたから。ではどこに? 人知れぬ地下の核シェルターに隠れていた。

 

「人質カノン」宮部みゆき ★★★★☆
 ――逸子がコンビニに立ち寄ると、中年の酔っ払いとよく見かける中学生の眼鏡くんがいた。その時――フルフェイスの男がレジの店員に銃をつきつけた。強盗は金庫から金を奪い逃走。後にはガラガラが残されていた。

 コンビニという場所だからこそ起こった犯罪。だからといって「希薄な人間関係の象徴」云々の紋切り型とは違います。店員と口を聞かなくても、ふだん人間らしい人づきあいをしていないわけじゃない。店でよく会う顔見知りでも、外で口を利く仲ではない。そのことが理解できない犯人が起こしたあまりにもやりきれない犯罪。視野の狭さと紋切り型の恐ろしさに自戒しました。

  [楽天]

 


防犯カメラ