『ナイトランド・クォータリー』新創刊準備号 幻獣(アトリエサード)

 2013年の第7号で休刊していた『ナイトランド』が復刊しました!

「白澤の死」立原透耶★★★☆☆
 ――白澤が死んだ。その一報は瞬く間に四海《せかい》に広がった。天上界を統べる玉帝は、直ちに調査するよう命じた。選ばれたのは、人でありながら異界と往来できる存在。「奇仁」と夢で字を呼ばれた少年は、土地神に連れられて白澤が死んでいる現場を訪れた。聞き込みにつれて明らかになってきたのは、黄帝が多くのものに恨まれているという事実だった。

 「包」少年が調査する白澤の死の真相。〈証人〉であり〈容疑者〉である幻獣たちが代わる代わる次々と現れ、さながら幻獣博覧会の趣を呈しています。みな人とは違う個性的な特徴や能力を持っている者たちなので、〈犯人〉探しは捗っているようですが――
 

「驚異の部屋」石神茉莉★★★☆☆
 ――五歳の息子が不思議なモノを見たと言う。半分透明で、翼があって、蛇のような尻尾があった。あわただしく扉が開いた。妻だった。父が息をしていないと言う。遺品整理のために、父の洋館を訪れた。ドアを開けると一人の少女が立っていた。「新しい当主か」「君は誰?」「当主が相続する権利と義務とでも言っておこう」地下室は不思議なもので満ちていた。

 キメラのような部屋で出会った、キメラのようなモノ。蒐集し陳列する行為でありながら、分類する博物学とは真逆の、混沌そのもののような「驚異の部屋《ヴンダーカンマー》」に巣食うモノの目的と正体は……西洋風の「驚異の部屋」と、民俗学風の怪異がうまく融合されていました。
 

「血の城」間瀬純子★★☆☆☆
 ――私は辺境の華である。鉛涯樹国では、官人はすべて、華と呼ばれる者たちで占められる。王女、忠姫様は、十数年前に心帝国にお輿入れなさった。その忠姫様が、昨年お生まれになった王子たちを連れ、里帰りなさる。長い外套が少しめくれた。嫁ぐ以前、忠姫様のおみ足は自然のままであった。ご成人なさってからでも、纏足が出来るのであろうか。

 ちょっと露悪趣味なところがあってわたしにはついていけませんでした。
 

「聖アントワーヌの変奏」井上雅彦
 

「幻獣ブックガイド」植草昌実
 ボルヘス『幻獣事典』をはじめとして、伝説や神話、実在の絶滅動物やUMA、『鼻行類』などの創作、そして小説作品が紹介されています。
 

ダゴン」H・P・ラヴクラフト/植草昌実訳/藤原ヨウコウ絵(Dagon,H. P. Lovecraft)★★★★☆
 ――定期輸送船がドイツ艦に拿捕され、俺はひとり救命艇で逃げ出した。俺は泥に埋もれかけ、歩き続けた。やがて湿原は乾き、丘の頂上から谷に降りると、桁はずれに大きい石碑があった。見たこともない象形文字のほかに、ギュスターヴ・ドレもうらやむようなものが描かれていた。

 ラヴクラフト初期の作品。少なくともこの作品だけ単体で読んでも、非クトゥルーものとして成立しています。――であるがゆえに、クトゥルー嫌いなわたしとしては、わりと気に入った作品です。ここに出てくるのは「ダゴン」ではなく、ペリシテ人の伝説に出てくる「ダゴン」を思わせるような怪物でしかありません(鵺のような声で鳴く怪物が鵺を呼ばれるようになってしまったように)。「何だかわからないもの」が「何だかわからないまま」で終わるという点で、後を引くような甘美ないやらしさが残ります。
 

「附論・アメリカの「幻獣」たち――恐竜、インディアン、海賊」徳岡正肇
 アメリカ人にとって「ancient」とは建国以前だ、という言われてみれば当然の指摘に、目から鱗が落ちました。
 

  


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