『幽』Vol.22【ハーン/八雲 Retold】

 創刊号に続いての小泉八雲特集。

 とはいっても「Retold」とあるように、八雲作品そのものではなく、佐野史郎による脚本、円城塔による新訳連載、能楽者・安田登と浪曲師・玉川奈々福らによる鼎談、などがメインです。円城塔×小泉凡による対談あり。
 

「幽的民譚(10)海の魔法」南條竹則
 フィオナ・マクラウド「海の魔法」「水の子たち」を訳載。
 

「第9回 幽 文学賞
 今回からは賞の名前から「怪談」が取れました。選評を読んだかぎり、面白そうなのは黒咲典「御籤石」(「怪談風土的なものを、懐かしく描いている」「女がちゃんと女を描いている」「物語性はないに等しいんですが、小説としてはよく書けている」)、鷹尾東雨『因業羅漢谷』(「京極さんの解説を聞くと、もしかしたらすごい話なのかなと」)、風花千里『五月は薄闇の内に――耕書堂奇談』(「第一話だけが短編部門に来ていたら高い評価になっていたんじゃないかと思います」)。

「美しい果実」唐瓜直
 ――妻の恵里が死んでから、俺は他人の妻を数え切れぬほど食った。結婚して五年目、妻が植物性皮膚硬化症候群にかかった。俺はそんな恵理を病院から連れ出そうとしていた。海沿いの小さな町にある農園に、恵理を埋める。それが遺言だから。「奥様は果実になることを望まれています」。ここでは果実が中心だ。そう、ここにいる女たちは皆、果実だった。

 短編部門の大賞受賞作。皮膚ならぬ皮から透けて見える果実や、皮に刃を通して果実を収穫する様子は、グロテスクで悪趣味ですが、選考委員から「美味しそう」というわけのわからないところで評価された実力はわからなくもありません。
 

「怪談映画語り(12)『妖怪百物語』」山田誠二
 キャプチャーされているスチール写真が、白黒ってこともあるんでしょうけど、素晴らしい出来です。

「霊ガタリの系譜(5)」東アジア恠異学会(榎村寛之・木場貴俊)
 その1,元・斎王、井上内親王について。内親王の生涯と怨霊化と鎮魂をコンパクトに紹介しています。その2,『産女霊神縁記』。

「スポットライトは焼酎火(22)『妖怪文化の民俗地理』佐々木高弘」
 地理学に人類学の視点を持ち込んだイーフー・トゥアンに影響を受けた「民俗地理」。「首切れ馬」伝承を追ううちに民衆史が浮かび上がる過程がスリリングそうな『怪異の民俗学』は読んでみたい。

  


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