『Historia Universal de la Infamia』Jorge Luis Borges,1935/1954年。
黒人奴隷の転売に、行方不明者のなりすまし――と一言で書いてしまうと、意外とセコイ。にも関わらず読んでいるあいだはセコく感じられないのは、彼らの犯罪が大胆で単純なところが大きい。周りがのどかな時代だった、とも言えるのだと思うけれど。まったく似ていない行方不明者になりすましたトム・カストロの回なんて、一瞬だけチェスタトンを幻視してしまいました。
と思うと、史伝かと思いきや突如ファンタジーめく鄭夫人の挿話もあったりして、のちのボルヘスからは考えられないくらい面白い〈読み物〉です。
モンク・イーストマンの項に出てくる、ニューヨークのギャングたちの姿は、そのまま漫画や映画の世界から飛び出して来たのかと思えるような個性的なものばかりです。事実は逆で、彼らにフィクションが影響を受けているのでしょうけれど。投獄されて一味を失ったあとは戦争に身を投じるイーストマンの行動も、漫画や小説のキャラクターのようで、こういうバイタリティーの有り余っている人というのは、今ならギャングじゃなくてホリエモンとかになるのかなあ……。
そして「吉良上野介」「メルヴのハキム」にいたって本書が「創作」であることが完全に明らかになりました。
「薔薇色の街角の男」は一からの創作作品。「めった刺しのロス」と呼ばれた男が、レアルというよそのシマの男に凄まれて……。
「エトセトラ」には『千一夜物語』やスウェーデンボリなどの各種の挿話を集める。
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