『大阪圭吉作品集成』小林眞・小野純一編(盛林堂ミステリアス文庫)

 大阪圭吉の現在入手困難な作品から四篇、古書店・盛林堂がまとめたもの。現在は『死の快走船 ミステリ珍本全集4』に収録されてで読むことができます。

「水族館異変」(1937)
 ――中学四年の清は、水族館で催されてゐる「南海美人鮑取り」にコツソリ通ふのであつた。香具師の伊太郎がお鯉と出会つて打ち出した興業だ。水槽のなかのお鯉やお春の姿に客たちが見とれてゐるあひだに、伊太郎は客の懐を……。

 本格ミステリ作家・大阪圭吉による、エログロ系の痴情犯罪小説です。これは完全にラストシーンの悪趣味な美意識が見どころの作品でした。乱歩「パノラマ島綺譚」あたりを髣髴とさせます。
 

「香水紳士」(1940)
 ――クルミさんはお嫁入りする従姉に、自分だけのお祝ひのつもりで、香水を買ひ求め、一人列車に席をとつた。そうして十分もしないうちに、四十前後の眼つきの鋭い男が眼の前の席へドンと腰掛けたのであつた。

 これは青空文庫にも掲載されているんですよね。少女雑誌に掲載されたということで、利発で勇敢な少女の機転(?)を利かせた逮捕劇となっております。
 

「求婚廣告」(1939)
 ――石巻謹太郎氏は求婚欄で結婚相手を探してゐた。謹太郎氏の好みにピツタリの広告を見つけ、履歴書のやり取りをしていよ\/会ふことになつた。ところが訪ねてみると、水田女史は「どなた様ですの?」

 普通こういう場合は翌月じゃなくて翌日になるのでは?とか、伏線がないとか、いろいろツッコミどころはありますが、ホームズ譚だと犯人自身が広告を見せたのに対し、本篇の主人公氏は自ら広告を眺める目的と習慣があるという点に改良の跡が見られると思います。
 

「告知板の女」(1939)
 ――大事な恋人とはじめての郊外散歩を約束した日曜日、木谷君は仕事に駆り出され、三時間半も遅れてしまつたのである。やつぱり、代々木駅にはもう彼女はゐなかつた。と、伝言板の上に「K様。駒込駅にてお待ちいたします。M子」と記されてゐるではないか。

 さんざん駆け巡らされたあげくまだ三時なのに五時半と書かれた文章を見つける場面は、ユーモアものといえどもかなりミステリ心をくすぐる箇所でした。

  


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