『脇役スタンド・バイ・ミー』沢村凜(PHP文庫)★★★★☆

 沢村凛の非ファンタジー作品に初めて挑戦。それにしても名タイトルです。

「第一話 迷ったときは」★★★☆☆
 ――北里花梨は「妥協することなく適応する」こつを学んでいたし、時間をかけずに決断するくせもついていた。何を思ったのか社長が顧客情報を500以下にして保護法の対象外にすると言い出したため、大切な古いデータを盗み出すことにした。

 主人公の「妥協することなく適応する」という生き方はすごく賢いように見えて、実はそういう人のことを世間では「調子のいい人間」と呼ぶのだ――ということに気づいていなかったゆえに起こった事件、ということができるかもしれず、そういう意味では後味の悪い作品とも言えます。
 

「第二話 鳥類憧憬」★★★★☆
 ――周りに高い建物がないこともあってか、数年前から鳩の糞の被害が増え始めた。ある日、千秋はおばあさんが鳩に餌をやっているところを目撃してしまうが、骨粗鬆症とお漏らしのせいで生きる気力を失っていることを聞き……。

 残酷な伏線と、救いというにもあまりにファンタジックな願望。やりきれない思いだけが残る、起こらずに済んだかもしれない悲劇でした。
 

「第三話 聴覚の逆襲」★★★☆☆
 ――このアパートは安普請で音が洩れやすい。あの日の物音も、二階の住人本人が立てた音だったのは間違いない。だが音だけではアリバイと見なされず、警察は二階の住人を殺人犯だと見なしていた。

 第三話の脇役は登場人物だけでなく恐らくは「聴覚」のことでもあります。頼りない年下の彼氏としっかり者の年上の彼女の見せる意外な関係にも窺える、うわべと実際の話です。
 

「第四話 裏土間」★★★★☆
 ――おせっかいは禍のもと。おせっかいは身を滅ぼす。いつのころからだろう。親切のつもりでした行為を変な目で見られるようになったのは。窓の隙間から向かいの家の土間が見える。なぜかそんな場所に少女が寝転がっていた。

 これまで登場した主役たちは、「一歩」を踏み出すおせっかいをして警察に疑惑を伝えました。そういう意味ではおせっかいの問題が中心に据えられた本篇こそ、本書を象徴しているとも言えるでしょう。
 

「第五話 人事マン」★★★★★
 ――定年間近で再雇用を希望していた大畑さんが殺された。人事部の飯田は退職金の計算をやり直すことになった。それにしても誰が大畑さんを? 飯田には気になることがあった。同じく退職間近の藤沼さんは再雇用を希望していなかったのだ。

 どこにも悪意が存在しないだけに、本書のなかでももっともやるせない作品でした。第三話の見知らぬ隣人や、第四話のおせっかい等に引き続き、時代が変わってしまったがゆえの悲劇でした。
 

「第六話 前世の因縁」★★★★☆
 ――きれいな女性に声をかけられた。前世占いの宣伝をしてくれたら謝礼をすると言われ、アルバイトの同僚に話してみると、磯村さんが興味を示した。磯村さんはせっせと占いに通っているようだった。

 ここに来て「脇役」が主役に躍り出ました。占い師の目的はある程度予想がつきますが、意外性はそこではないところにあったのでした。
 

「最終話 脇役の不在」

 エピローグにして全話をつなぎ、またある事実をひっくり返す作品です。他人の目を通して見た、第四話のおせっかいさんや第三話の彼女さんの姿が印象的でした。

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