『ルパン、最後の恋』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

 ポケミス版が出たときに、どうして「壊れた橋」を収録してくれないのかと思ったのですが、文庫化を見越していたようです。
 

ルパン、最後の恋(Le Dernier amour d'Arsène Lupin ,Maurice Leblanc,1936/1937/2012)★★★☆☆
 ――ジャンヌ・ダルクが集めたイギリスの秘密をルパン将軍が手に入れた。だがナポレオンの失脚により、秘密は歴史に埋もれた――。そして1922年、空輸される金貨を狙うルパンの手紙と、それを否定するルパンの声明が公にされる。アンドレ・ド・サヴリー大尉は、ろくでなしのラ・クロッシュ親父の私生児たちを部下として使い、強盗たちの計画を阻止しようとしていた。だが強盗たちはアンドレが慕うコラ嬢へも魔の手を伸ばしてきた……。

 ルパンシリーズにはこれまでにもスケールの大きな話はありましたが、本書はイギリスの次期国王候補までをも巻き込んだ恋や、世界平和を望まんがためにイギリス諜報員と袂を分かつという、バカバカしいまでにでっかい作品です。残念ながら本書には「怪盗」ルパンは存在しません。トリッキーで行動的な若きルパンではなく、自信家で不動の万能なルパンがいるだけです。しかし「人間」ルパンは健在でした。みずからの恋よりも好きな人の幸せを優先しようとするルパンは、いっそもどかしいほどです。もう一つの魅力はラ・クロッシュ親父の子どもたち――とはいっても、活躍するのは(ルパンが父親であるらしい)二人だけですが――『ドロテ』で明らかなように、ルブランは意外と子どもを描いて生彩があるんですよね。
 

「アルセーヌ・ルパンの逮捕 初出版」
 

「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」
 

「壊れた橋」(The Bridge That Broke)★★★☆☆
 ――高名な科学者のサン=プリ教授が急死した。自宅の庭を流れる小川にかかる厚い板の橋を渡っていると、橋が折れて、岩に頭をぶつけて即死した。橋にはのこぎりで切れ目が入れられていた。

 アメリカ版『バーネット探偵社』のみ収録の作品。ルパンシリーズの短篇トリックには古典的なトリックが用いられている場合が多く、本篇なども律儀なまでにまっすぐに意外性のある真相であるため今ではかえって意外性がない結果となっていますが、『バーネット探偵社』収録作中でも出来はいい方だと感じました。ルパンが掠め取る「お宝」が意表を突いていました。

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