すべてが書籍初収録の、『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』に続く、時間SFアンソロジー第二弾。
「真鍮の都」ロバート・F・ヤング/山田順子訳(The City of Brass,Robert F. Young,1965)★★☆☆☆
――ビリングスは定期的に時間を逆行して歴史的重要人物を誘拐しては、複製を造る自動マネキン会社の時間旅行者をなりわいとしていた。ある日のこと、シェヘラザードの時代に行き……恋に落ちたのです。
甘甘ファンタジーの第一人者による、何となくだけSFっぽい千二夜目のファンタジー。
「時を生きる種族」マイケル・ムアコック/中村融訳(The Time Dweller,Michael Moorcock,1964)★★★☆☆
――向こう傷のブルーダーは時の君主から未来をまかされも過去をあずけられもしないことに絶望し、ランジス・リホを出て羊歯の国バーバートを目指した。そこには十二等分された針のある機械や、時刻という耳慣れない言葉があった。
扉には難しそうなことが書かれていますが、何のことはない、時刻の概念のない世界の住人が時刻の概念のある世界と邂逅した作品――だと思ったら、やっぱり途中から小難しくなりました。
「恐竜狩り」L・スプレイグ・ディ・キャンプ/中村融訳(A Gun for Dinosaur,L. Sprague de Camp,1956)★★★★☆
――体重十ストーン以下の人間は恐竜狩りには連れて行けない。六〇〇口径の銃を扱えないからだ。独りよがりな若者ジェイムズは、ルールを守らず銃を濫発した。痩せぎすのホルツィンガーはウィンチェスター七〇を手にしていた。
本篇に描かれている恐竜の生態は「現在の研究成果とは一致しない」とはいうものの、恐竜の殺し方一つ取っても、わかっている範囲の知識をもとに理に適った方法が取られており、時間SFというより恐竜ハンティング小説として一級品の面白さでした。
「マグワンプ4」ロバート・シルヴァーバーグ/浅倉久志訳(MUgwump 4,Robert Silverberg,1959)★★★★☆
――アル・ミラーはMUの4番をダイヤルした。「きみはだれだ?」 ミラーは人類打倒を目指すミュータントに拉致され、秘密を知った代償に未来へと送られる。
ユーモラスでシンプルなだけにラストの怖さが際立つ結果となっていました。シンプルとは言っても、時間だけでなく次元も飛び越えています。
「地獄堕ちの朝」フリッツ・ライバー/中村融訳(Damnation Morning,Fritz Leiber,1959)★★★☆☆
――額に神秘的なしるしをつけた女が現れ、「生きたい?」と訊いた。おれは大酒を断とうとして譫妄症を起こしかけ、誰かを殺したか瀕死の誰かを放置して失神していたはずだった。
何だかもうアルコール依存症時に見た幻覚にSF的な後付け説明を施しただけにしか見えない困った作品です。
「緑のベルベットの外套を買った日」ミルドレッド・クリンガーマン/中村融・橋本輝幸訳(The Day of the Green Velvet Cloak,Mildred Clingerman,1958)★★★☆☆
――ヒューバートとの結婚を控えたその日、メイヴィスはとても値が張る緑のベルベットを買うという失敗を犯した。実際に着る機会があるかどうか怪しいというのに。デパートを出ると古本屋〈隠れが書房〉に向かった。十九世紀の女性の日記を収集していたのだ。
初め主人公はオールドミスかと思ったのですが、読んでいくと「若い女性」であるらしい。この作品の場合ハッピーエンドは結果であって、自分に自信を持って生きると決意したことへのサプライズ・プレゼントに過ぎない――というところが、「たんぽぽ娘」のような気持ち悪さを感じずに済む所以だと思います。
「努力」T・L・シャーレッド/中村融訳(E for Effort,T. L. Sherred,1947)★★★★★
――マイク・ラビアダは過去を映す機械を発明しても、特許を取ろうとはしなかった。おれたちはハリウッドに行き、しばらくのあいだ「本当の」歴史映画を売り込んだ。マイクには平和のために考えていることがあったのだ。
保守的なものに対する否定をヒステリックに糾弾する民衆と国家という構図が、いつの時代のどこの世界にも当てはまってしまうというのが恐ろしい。ほとんどの場合「自分の信じたいもの」と「うわべの真実」が一致しているのならば、「隠された真実」が明るみに出ることは通常はありません。過去を映す機械がなければ……。巨大な武器が平和を築くための抑止力ともなるという図式が、核兵器を保有する屁理屈にも似ているのは皮肉です。
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