『謎解きはディナーのあとで2』東川篤哉(小学館文庫)★★★☆☆

 これまで本書を含めて短篇集3冊・長篇6冊を読んだかぎりでは、著者は伏線やトリックに長けた本格派なので、長篇に分があると感じています。ユーモアも長篇の方が生き生きとしていると思います。

「アリバイをご所望でございますか」★★★☆☆
 ――ビルの踊り場で女性の刺殺体が発見された。その女性が七年間つきあっていた彼氏から、会社の重役の娘と結婚するからと別れ話をもちかけられたばかりだったことを知った風祭警部は、元彼氏こそ怪しいと決めつけるが――。

 木の葉を隠すなら森に、饒舌を隠すなら饒舌のなかに――単なるお笑い要素に見える掛け合いのなかに、真相のヒントが隠されており、自分の作風を自覚したうえでの伏線隠しにニヤリとします。謎解き作品としては平凡ですが、面白い伏線隠しだと思いました。
 

「殺しの際は帽子をお忘れなく」★★★☆☆
 ――神岡美紀が浴槽で溺死しているのが発見された。愛人やストーカーが容疑者と目されるが、決め手がない。クローゼットからたくさんあった帽子が消えているのは、何か事件に関係があるのか――。

 ここに来てパターンを変えてきましたね。それはともかく、消えた帽子が謎解きの鍵を握っているのは明らかなので、帽子が消えた理由を読者へと挑戦しているようです。さて帽子の特性とは――。形状から容易に想像がつく発想を隠れ蓑に、逆転の発想とそれを補強する伏線が映えていました。
 

「殺意のパーティにようこそ」★★★☆☆
 ――麗子の友人である綾華の父親の還暦パーティの席上、同じく友人の瑞穂が何者かに頭を殴られ気を失って倒れているのを発見された。目を覚ました瑞穂は、殴ったのは知らない人間だったと告げてふたたび失神するが……。

 見えない人のバリエーションというのは大抵納得がいきません。現実的にあり得るのかどうかよくわかりませんが、登場人物がかぎられている小説のなかだと、いっそう納得がいきません。
 

「聖なる夜に密室はいかが」★★★☆☆
 ――ロフトからの転落死。雪の上には被害者が帰宅した自転車の跡と発見者が往復した足跡しかなかったところから、事故死かと思われたが……。

 トリック自体は他愛もないのに、雪密室と消去法の推理という美しさに彩られた作品でした。
 

「髪は殺人犯の命でございます」★★★☆☆
 ――花柳家で見つかった被害者の死体は、自慢の長髪をハサミでばっさり切られていた。誰が、いったい何のために……?

 髪を切った理由を、動機の面からではなく手段の面から攻めてゆくところが盲点を突いています。
 

「完全な密室などございません」★★★☆☆
 ――著名な画家がアトリエで背中を刺されて死んでいた。発見者二人が駆けつけてドアを開けたが、部屋には画家一人だけ。果たしてこれは密室なのか――?

 単行本書き下ろし。斜め屋敷のような大胆な建築とスケベ根性のギャップが哀しい。「聖なる夜に――」もそうでしたが、トリックものはギャグ色が強いです。アンフェアと言ってはいけません。完全な密室などないのだから……。
 

「忠犬バトラーの推理?」★★★☆☆
 ――麗子の父親のアトリエ(?)が荒らされ、麗子のエジプト土産である水晶玉が部屋から消えていた。

 文庫書き下ろしショート・ショート。なにゆえタイトルに「?」マークが入っているのか――というのがオチでもありました。

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